切なくも甘酸っぱい恋の物語『CHI・GU・HA・GU』レビュー

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私はいい歳したおじさんということもあり、普段ラブコメ作品のレビューは書きません。
なぜならば、私が書くと気持ち悪いからです(笑)。
本人がそう思うのですから、他人からすれば噴飯ものでしょう。

ですが、たまたま漫画サイトで昔読んでいた作品を見かけました。
それは、まだ私が10代の頃に読んでいた『CHI・GU・HA・GU』というマンガで、ノスタルジーに浸ってしまいました。

というわけで(どんなわけだ?)、今回はその作品のレビューと相成ります。


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『CHI・GU・HA・GU』とは

このマンガは、昭和の終わり頃から平成の初めまで『週刊ヤングジャンプ』に連載していました。
当時、私はその雑誌の愛読者であったため、読み始めたというわけです。

作者は山崎花子というペンネームであり、『週刊ヤングジャンプ』にしてはペンネームのとおり、かわいい感じの絵柄です。
ところが、後に男性ということが判明し、いささかショックを受けたことを覚えています。

この作品は、主人公アンパンと同級生のヒロイン・三ツ矢みるくが相思相愛ながら、すれ違いや誤解によりなかなか関係が進展しない、じれったくも甘酸っぱい物語となっています。

アンパンは主人公といっても、その辺にいそうなごく普通の高校生であり、なぜ学校一の美少女みるくに好かれているのか分かりません。
かたや、みるくは容姿端麗なだけでなく勉強もでき、家事全般もこなすしっかり者です。
まさに、完璧なヒロイン像といえるでしょう。

ですが、私からすると、みるくは見る目があるなぁ~と感じます。
アンパンは特別イケメンというわけでもなく、だらしなくてスケベです。
一見すると、みるくに対して素直になれず、ぶっきらぼうな態度もとるなど、言動もイケてません。
でも、自分のことよりも他人を優先する、やさしい心の持ち主です。
きっと、みるくはアンパンのそうしたところに惹かれたのではないでしょうか。

そして、本作にはもう一人、欠かすことのできない名バイプレイヤーがいます。
それは、アンパンのおじいさんです。
仕事が忙しく留守がちな両親に代わって、幼い時からアンパンを育ててきました。
ユーモラスで、人の気持ちが分かる好人物です。
ただ老人ゆえに肝心なところでボケを発症してしまうのが、玉に瑕ではありますが…。




お気に入りのストーリー紹介

本作では、印象深い物語がいくつも出てきます。
なので、大変悩みましたが、本稿ではアンパンのやさしさが心に沁みるストーリーを紹介します。

みるくは東京の親元を離れ、一人暮らしをしながら高校に通っています。
買い物に行くと、度々おじいさんと顔を合わせるようになりました。
実は、そのおじいさん。
なんと!アンパンのおじいさんだったのです。
偶然を装い近づき、こともあろうか家政婦をしてくれるよう頼みます。
アンパンの生徒手帳にみるくの写真が挟んであるのを目撃し、孫のために一肌脱いだのでした。

こうして、みるくは毎日のように、アンパンの家に通うことになりました。
驚いたことに、才色兼備で学校一のモテモテみるくも、アンパンに恋心を抱いていたのです。

ですが、ふたりはすれ違いを繰り返し、なかなか上手くいきません。
放課後、評判のお店にケーキを食べに行く約束をしていたにもかかわらず、急にアンパンに委員会の仕事が入って行けなくなってしまいます。
またある時は、みるくの機嫌を損ねたあんぱんがデートに誘うも、先に友人との約束が入っていたことを忘れていたため、泣く泣くデートをドタキャンせざるを得なくなりました。

本当に間が悪いというか、運が悪いというか…。
「オイオイ…アンパン…」
おじいさんのため息が聞こえてきそうです。

ある日、アンパンとみるくは一緒に帰宅していました。
道中、みるくは巷で評判のラブロマンス映画のポスターを見つけ、アンパンに行きたいとねだります。
色よい返事をしないアンパン。
相変わらず、素直になれない不器用な男ですね。

そんなやり取りをしていると、アンパンの友人かずおを偶然見かけます。
隣に妹のサチ子を連れていたのですが、なぜか慌てているではありませんか。
サチ子はみるくをじっと見つめていると、突然叫びました。
「わかった!牛乳だ!牛乳娘ェ!!」
どうやら、みるくを和訳して理解している模様…。

そして、なおも続けます。
「かず兄の恋人の牛乳娘だぁ!」

かずおは妹に見栄を張りました。
友達に兄の恋人の有無を聞かれたサチ子はいると言ってしまったようで、妹の困った顔を見ているうちに、つい嘘をついてしまったのです。
かずおはみるくに嘘をついたことを必死に謝ると、みるくは快く許します。

砂場でサチ子と遊ぶかずおからは、本当に妹を大切に想っている様子が伝わってきます。
その姿に相好を崩すみるくは、サチ子に呼ばれ一緒に砂場遊びを始めます。
サチ子は、美人で優しいみるくを一発で気に入りました。

数日後、アンパンは公園で独りポツンと座っているサチ子を見かけました。
事情を聞くと、友達にみるくを会わせる約束をしてしまい、かずおにこっぴどく叱られたのです。

アンパンはサチ子に尋ねます。
「どうして、そんな約束しちゃったんだよ?」
「だって…好きなんだもん!牛乳娘…サチ子嬉しかったんだもん…きれいでやさしいから」

しょんぼりするサチ子の頭を撫でながら、アンパンはやさしく言いました。
「俺が…頼んでやるよ。牛乳娘に。で、いつなんだ?」
「今度の日曜日」

思わず、ずっこけるアンパン。
なぜならば、みるくが観たがっていたラブロマンス映画のチケットを、日曜日の予約指定で買っていたからです。
ですが、「ん…わーった…」とアンパンは約束するのでした。

家に帰り、アンパンはみるくに頭を下げて頼みます。
「というわけで…お願いします。牛乳…いえ、みるくさん!」
みるくは「一つだけ答えてくれる?本気じゃないわよね?」とアンパンに訊きながらも、了解しました。

兄に美人でやさしい恋人ができたと喜ぶサチ子。
ついつい、友達に自慢したくなる気持ちも分かります。
にもかかわらず、兄に怒られ、さぞかし困ったことでしょう。

そんな中、アンパンが窮地を救います。
果たして、私ならば同じ行動を取れるか自信がありません。
決して裕福とはいえない高校生が、なけなしのお金をはたいて買ったのです。
何よりも、大好きなみるくのために取った予約チケットです。
素っ気ない態度を取りながらも、アンパン自身、さぞかし楽しみにしていたに違いありません。
それでも自分の気持ちを押し殺し、黙って幼いサチ子のピンチに手を差し伸べる、アンパンは本当に良いやつですね!
アンパンは見た目や雰囲気とは異なり、あたたかい心を持つ不器用を絵に描いた「昭和の男」を感じます。

嫌な顔一つせず承諾する、みるくも優しい娘です。
「本気じゃないわよね?」と確認するところに乙女心が垣間見え、アンパンはつくづく幸せ者だと思いました。

そして、当日サチ子の家に行くと、かずおは驚きを隠せません。
「わー!!牛乳娘!!」
兄の狼狽もなんのその、サチ子は大喜びです。

「この人がサチ子のお兄さんの恋人?」
「わーきれい!」
きゃっきゃ!とサチ子の友達が、みるくに群がります。

その様子を嬉しそうに眺めるサチ子に、かずおは釈明しました。
「あのなぁ…俺正直に言うけど、あの人…」
「恋人じゃないんでしょう?」
「は!?」
「フフフ、やだなぁ!いくら私だって分かるわよぉ。ただ、どうしても自慢したかったの」

サチ子の言葉に、思わず苦笑いのかずお。

「ねぇ、お兄ちゃん。牛乳娘が好きな人って、もしかするとアンパンなのかな?」

どこまでも鋭い“今どきの少女”サチ子でした。

一方、その頃、アンパンは…。
「あ~あ…サチ子のヤロー。よりによって今日なんかに約束しなくても…いいじゃねぇかよ…」
そう愚痴りながらも微笑みを浮かべ、破ったチケットを窓から撒くと、空に舞う紙吹雪を眺めていました。

この結末を見ると、本当にアンパンの決断が素晴らしかったと実感させられます。
あのままではサチ子の立場は無くなり、もしかすると酷く傷ついたかもしれません。

文句を言いながらも、風に吹かれるチケットを見つめるアンパンの微笑みは、人柄を表すように優しく、温かいものでした。

人は、アンパンにとってみるくは高嶺の花と言うでしょう。
でも、ふたりは最高にお似合いです。
アンパン、頑張れ!ファイト!

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