野球漫画の金字塔「キャプテン」~谷口タカオ その白球にかける思い~②

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春の地区予選が始まり、新キャプテンとして墨谷二中ナインを率いる谷口タカオ。
1回戦は、江田川中の剛腕投手・井口に苦戦するも、新入部員のイガラシのアドバイスで辛くも勝利を収める。

続く2回戦は、強豪・金成中と相まみえる。
強豪校相手に、苦渋の決断を迫られる“キャプテン”谷口であった。


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キャプテンとしての苦悩

対金成中のミーティングの最中、ひょんなことからイガラシの実力を試すことになる。
すると、打ってよし守ってよしという、少し前まで小学生だったとは思えぬ能力の高さを見せつける。
思わず、その様子を見ていた新入部員たちから拍手が起こるほどだった。

谷口はイガラシをレギュラーに抜擢しようと提案するが、副キャプテンをはじめ、他のメンバーは異を唱えた。
墨谷二中では伝統的に、9月までは1年生をレギュラーにしないという暗黙の了解が存在したからだ。
それに加えて、イガラシがレギュラーになるということは、誰かがポジションを奪われることにもなる。
チームの和をとるか、実力をとるか、新キャプテンとしては迷うところだろう。

ただでさえ、優柔不断な谷口は悩みに悩んだ。
それこそ夜を徹して、あれこれと思案した。
谷口はついに決断する。
試合に勝つために、イガラシをレギュラーで使う代わりに丸井を降格させることを。

実力的には明らかに劣る丸井だが、谷口は丸井の気持ちを想うあまり、なかなか決断できずにいた。
それでも、キャプテンとしての責務を果たすため、心を鬼にする。
監督がいない墨谷二中では、キャプテンが泣いて馬謖を斬らねばならないのである。

翌日、レギュラーの交代を皆に伝える。
ナインに動揺が走った。
慣例を破るだけでなく、当の丸井が次の試合のために新しいグラブを買い、やる気満々だったからである。

肩を落としながら、ベンチに戻る丸井の目には涙が滲んだ。
谷口もその様子に、いたたまれない気持ちになる。
人の痛みが誰よりも分かる谷口には酷な場面であり、“キャプテン”という責任の重さがこちらにまで伝わってくる。

さらにチームの雰囲気を悪化させたのは、イガラシの態度であった。
下級生ながら先輩たちよりも実力があるので、上級生でもお構いなしに生意気な物言いをする。
こうして、チームに不満が溜まっていった。




信頼の絆

丸井の努力を見てきた部員たちは、日が沈みかけた練習後、キャプテンに抗議しようと集まった。
と、その瞬間、丸井が飛んで来る。
「やめろ!みんな、キャプテンのことを何だと思ってんだよ!簡単に抗議だなんて決めちゃってるけど、キャプテンだってよくよく考えて決定したことなんだぞ!キャプテンになってくれって頼んだのは、オレたちじゃないか…そのキャプテンを信じられねえのかよ!」

その横をイガラシが通る。
「丸井さんって、良い人なんだね」

実は、谷口はその様子を陰で見ていた。
「ありがとう…お前のためにも、第2戦は勝ってみせる。見ててくれ、丸井…」

この一連のシーンを見た私は、改めて「キャプテン」という作品の素晴らしさに、深い感銘を受けた。
三者三様の姿が胸を打つ。

墨谷ナインの中で、丸井は最も谷口を尊敬している。
その谷口にレギュラー降格を言い渡されたのだ。
そのショックの程は、余人には計り知れない。
人によっては、谷口を逆恨みしてもおかしくないだろう。
にもかかわらず、丸井はあくまでも谷口の決断を信じ、尊重しようとしたのである。
普通ならば、自分のために抗議までしようとする他の部員たちに、なびくのではないか。
おっちょこちょいで直情的な丸井だが、こうしたところが憎めない。
谷口が、次期キャプテンに選ぶのも頷ける。

上級生と折り合いが悪いイガラシは、特に丸井とは犬猿の仲である。
イガラシは口が悪く生意気なため、上級生からすればカチンとくるのもよく分かる。
それでいて、実力がずば抜けているのだから、余計に癪に障るのだろう。
そんなイガラシが、不俱戴天の仇ともいえる丸井を称賛したのである。
一見、生意気なイガラシも、実は人を正当に評価することができるのだ。
人と軋轢を生むのは、“良いものは良い、悪いものは悪い”という正論を、一切オブラートに包んで言わないからだろう。
だが、イガラシは墨谷二中にとっては貴重な逸材であり、本作にとっては欠かすことのできないキャラクターである。

そして、“キャプテン”谷口タカオである。
チームの勝利のために非情に徹し、人を切らなくてはならない辛さ。
でも、チームメイトには、その苦しみを理解してもらえない。
キャプテンという役割は、なんと孤独なのだろう。

谷口にとって幸運だったのは、丸井という良き理解者を得たことである。
丸井に心の中で感謝し、勝利を誓う“キャプテン”谷口タカオ。
私はこのシーンに、エンディング曲「ありがとう」の一節を思い出すのであった。

きみの背中に 夕陽が射す 僕はありがとうと そっと言うのさ

たとえ夢が 壊れたときも きみがいれば 望み湧いてくるよ 明日が見えるよ

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