「マスターキートン」~人生の達人が紡ぐ大人の寓話~②『家族の瞬間』

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今回は、主人公のキートン・太一と家族の交流を描く物語である。

キートンには日本に実父・平賀太平と、高校生になる娘の百合子がいた。
普段は何かと忙しいキートンが束の間、家族と過ごすかけがえのない時間。

情緒あふれる秋の夜長で織り成す、キートン・父・娘の“家族の絆とぬくもり”のストーリーを紹介する。

ストーリー

ロイズ保険会社のオプとして、世界中を忙しく飛び回るキートン。

今日は珍しく、父の家に帰省すべく日本に来ていた。
久しぶりの日本、そして秋の情緒をしみじみと堪能している。
だが、父も娘もキートンそっちのけでバタバタと所用で駆けずり回り、放置状態のキートンはいささか面白くない。

実は、今回の来日の目的は、胡桃沢大学の講師の職を求めてのものだった。
もちろん、かねてから目標にしてきた考古学者としての道を歩むためである。

そして、合否結果の当日を迎える。

その夜、太平の家の居間で過ごす3人。
言葉にこそ出さないが、今晩、胡桃沢大学から連絡が来ることを家族は承知していた。

突然、電話の着信音が鳴った。
慌てて出るキートン。
だが、結果は不合格であった。

落ち込むキートンに百合子が声をかける。
「胡桃沢大学がダメだったからって、ガッカリすることないよ」
太平も慰める。
「学問はどこでも出来る。便所の中でもな…」

「どんなことがあっても、ここが家なんだからね。お父さんのこと、待ってるからね」
娘の優しい言葉に「ありがとう」と感謝するキートンだが、表情は冴えない。

そして、自らの思いを吐露した。
「でもね、私はオプの仕事ばかりやって、人生を無駄にしているような気がするんだ。今は大学に戻って研究をすべき時なのに…」

肩を落とす息子に太平は言う。
「私だって人生を無駄にしている。余計なお節介ばかりやいてな」
「だけど…私の場合は…」

リーンリーン リリリリリ…リーンリーン リリリリリ…。

庭から秋の虫たちの鳴き声が聞こえてくる。

その声を聴きながら、太平は息子にやさしく語りかけた。
「なあ、太一。こうやって人生を無駄遣いするのも…素晴らしいことじゃないか」

リーンリーン リリリリリ…。
虫たちの音色は、いつまでも秋の夜長に響いていた。


MASTERキートン 3 完全版 (本作品収録巻)

所感

キートンの家族

久々の再会だというのに、置いてけぼりをくらうキートン。
娘の百合子は顔を見せたかと思うと、友達との約束があると言って直ぐに出て行ってしまう。
父・太平に至っては、のっけから朝帰りである。
これでは、キートンがむくれるのも無理はない。

だが、百合子は友達の窮地を救うために奔走していた。
そして、太平もてっきり元来の女好きが発病したかと思いきや、今は亡き学者仲間の妻の心を癒すため、毎週のように入所施設へ慰問をしていたのである。

百合子は見目麗しいだけでなく、正義感が強く心根が真っ直ぐなところは、父キートンの血を受け継いでいる。
ちなみに、気が強くて男勝りなところは、母親譲りだと思われる。

太平は息子とは真逆の性格で、若い頃から女たらしで遊び人であった。
だが、さすがキートンの父親だけあって、心の機微が分かる優しさも持ち合わせている。

要するに、この家族は3人そろって短所もあるが、素晴らしい人柄が魅力的な好人物なのである。




家族の瞬間

父の家でくつろぎながら、キートンが呟いた一言。
「やっぱり、日本の秋は世界一だなァ」

これは、日本人の多くが感じることではないだろうか。
赤や黄色など、色鮮やかに山々を彩る紅葉。
そして、舞い落ちる葉の儚げな趣。

ほとんど日本にいないキートンならば、なおさら感じたに違いない。

そして、学生時代から志した考古学者としての道。
その夢が断たれた無情の電話。
厳しい現実の前に打ちひしがれるキートンを、やさしく慰める父と娘。
普段は会うこともままならぬ家族だが、思いやりと絆の深さが伝わってくる。

そして、そんな家族をやさしく包み込むように、虫たちの奏でる美しい音色が聞こえてくる。
どこか物悲しさを漂わせながらも、日本人の心の琴線に触れる虫の声。
それは、欧米人の心には響かない、日本人と一部の人種だけが持つ独特の感性だという。

その音色に思わず聞き入る3人の家族たち。

「なあ、太一。こうやって人生を無駄遣いするのも…素晴らしいことじゃないか」

この太平の言葉こそ、人の世の哀歓を知る「人生の達人」ならではの箴言であろう。

とかく無駄を省き効率ばかり求められる現代だが、ときには立ち止まり、ゆっくりと流れる時間に身を任せることの大切さ。
人生にはのりしろや余白、そして間が必要である。
そして、人生の中で意味のある無駄遣いや回り道をするからこそ、心にゆとりや豊かさが醸成される。

平賀太平が息子に語りかけた言葉に、そんな「MASTER OF LIFE(人生の達人)」の思いが込められているのではないか。

まさに、この父にしてこの息子ありである。

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