「マスターキートン」~人生の達人が紡ぐ大人の寓話~⑥ 『屋根の下の巴里』

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主人公・平賀=キートン・太一は様々な顔を持っているが、考古学者という肩書も持っている。
実は考古学こそ、彼が一生続けたいライフワークなのだった。

そのきっかけとなったのが、大学時代の恩師との出会いである。
どんな障害にも屈することなく、己の信念を貫いた本物の“教師”。
その人物こそ、“鉄の睾丸”ユーリー・スコット教授なのであった。

ストーリー

1941年、イギリスの首都ロンドンは、ナチスドイツの空襲により甚大な被害を受けた。

オックスフォード大学のユーリー・スコット教授は、週1でロンドンの社会人学校に招かれていたが、折り悪く戦災に巻き込まれる。
だが、スコット教授は自らの危険も顧みず、学生達と共に救助活動に駆け付けた。

そして、救助を終え学生達を集めると、焦土と化した街をバックに講義を始めだす。
こんな時だからこそ、学ぶことを放棄してはいけないと!

恩師の志を受け継ぎ、今、キートンは社会人学校で教鞭をとっていた。


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生涯の恩師

これまでの人生で多種多様な経歴を持ち、数多の人々との出会いを繰り返してきたキートンにとって、唯一の恩師がユーリー・スコット教授である。
ちなみに、娘の百合子の名はユーリーから拝借したという。

一見すると、凡庸な風貌に加え体格も華奢であるが、オックスフォード大学史上No.1ともいえる肝の座った人物だった。
その異名“鉄の睾丸”からも、そのことが分かるだろう。

ロンドン大空襲により、街は炎に包まれ建物は瓦礫と化す。
そして、多くの人々が命を落とした。

そんな中、救助活動を終えた後、煤だらけの顔をしたユーリー・スコットはテキストを出すと、こう言った。

「さあ諸君、授業を始めよう。あと15分はある!」

そして、命からがら逃げ延びた生徒達に力強く呼びかける。

「敵の狙いは、この攻撃で英国民の向上心を挫くことだ。ここで私達が学ぶことを放棄したら、それこそヒトラーの思うツボだ!今こそ学び、新たな文明を築くのです!」

そんな“気骨の人”ユーリー・スコットに、キートンは学ぶことの素晴らしさを教えられる。

学生結婚し、生活のため日中働くキートンのため、ユーリー教授は教官専用の書庫のカギを渡す。
「昼間忙しいのなら、夜勉強したまえ」

そして、その時の経験でキートンは確信する。
「人間はどんな環境におかれても学ぶことができ、学ぶ喜びを得られるのだ」と。

もうひとつ、キートンがユーリー教授を師と仰ぐ理由がある。
ユーリー・スコットが唱えた「ドナウ=ヨーロッパ文明起源説」に、キートンも賛同していたからだ。

だが、当時その学説は異端視されており、発表することと引き換えに学会を追放されてしまう。
だが、ユーリー・スコットは教授職を辞してまで己の信念を貫き、オックスフォード大学を去る。
その時、キートンは教授から一通の手紙を受け取った。

「どんな状況に置かれても研究を続け、立派な学者になりなさい。そして、その時は必ず会おう」

だが、それ以来キートンはスコット教授に会うことなく、時間だけが過ぎていた。

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教壇に立つキートン

日本の講師をクビになったキートンは、パリにあるシモンズ社会人学校で教鞭をとっていた。
もちろん教えているのは考古学、それも「ドナウ=ヨーロッパ文明起源説」である。
生徒達からの評判も上々で、キートンもここを気に入っていた。

ところが、政府が敷地を購入し養老院を立てるため、廃校が決まってしまう。
一度は学問から離れた大人に学びの場を提供してきた学校が、40年もの歴史に終止符を打つのである。
肩を落とし、寂しさを隠せないキートンと生徒達。

最後の授業で、キートンは生徒達にメッセージを送った。

「最後に、皆さんには、たとえ学校が無くなっても学び続けて欲しいと願います。私も、学校の職を失っても学び続けます。学ぶ情熱がある限り」

その時、すでに建物の引き渡し期限が過ぎていたこともあり、視察のため役人が大臣を引き連れ、無遠慮にズカズカと乗り込んで来た。
普段は温厚なキートンも注意する。
「待ちなさい。今は授業中です」

大臣に対して無礼だと言い返す役人に、キートンは一喝した。
「大臣でも静かにしなさい!!」
その迫力に押され、黙り込む一行。

そして、キートンは生徒達に真摯に語りかける。

「人間は一生、学び続けるべきです。人間には好奇心、知る喜びがあります。肩書や出世のために学ぶのではありません…学ぶことこそが、人間の使命だからです!」

万雷の拍手が鳴り響く教室で、一人の年配の生徒が言った。
「以前、あんたと同じことを言って、勇気づけてくれた大先生がいた。その方も、ドナウ文明のことを話していた」

その瞬間、キートンは気付いた。
恩師も、ここで授業をしていたのだと!

最後に、生徒達がキートンにお礼をしたいと、趣のある店に招待した。
店に行きドアを開けると、キートンを迎える素晴らしい笑顔を讃えた生徒達。
そして、店の奥まで進むと、椅子に腰かける人物がいる。
それは、恩師ユーリー・スコットだった!

「Mr.キートン…立派になったなぁ」

思わず涙が滲むキートンは、ひとこと答えた。

「……はい!」

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所感

社会人学校には、年配の生徒もいた。
つまり、年齢に関係なく本当に学びたい人々が集う場所なのだ。
そんな彼らが、これまでの授業で最高評価を与えたのがユーリー・スコットとキートンのふたりである。
ある意味、若い学生からの評価よりも名誉なことなのかもしれない。

それにしても、スコット教授には胆力もさることながら、真の教育者としてのあるべき姿に感銘を受けずにはいられない。
彼の唱える学ぶことの素晴らしさと意義。
それを継承しているのが、愛弟子のキートンといえるだろう。
最後の授業は、まさにユーリー・スコットの教えが息づいていた。

そして、ただでさえ名作の誉れ高き「巴里の下の屋根」が、秀逸なラストシーンによりこれ以上ない大団円を迎える。
シモンズ社会人学校の生徒達の粋な計らいで、師弟が再会を果たすのだ。
静かだが心通わす恩師とのやり取りに、キートンの感無量の思いが伝わってくる。

私はふたりの再会のシーンに、「BARレモン・ハート」に出てくるマスターと恩師の物語を思い出す。

恩師・久保田先生は、マスターに向かって言った。

「世の中にはたくさんの出会いがある。その中で最も良い出会い、それは再会だ。立派に成長した君を見て、私は心の底から嬉しい」

石橋蓮司演じる久保田先生の含蓄ある言葉に、マスターは思わず感極まる。

「Mr.キートン…立派になったなぁ」というユーリー・スコットの言葉に、涙ぐみ感極まったキートンの姿が、私には重なって見えたのだ。
そして、ユーリー・スコットもまた久保田先生と同様、教え子の成長した姿が心の底から嬉しかったに違いない。

本作には、様々な大切なことが詰まっている。
教育、学び、人と人との絆…。
そして、歳月を経た後の出会い「再会」こそ、人生にとって最も素晴らしき瞬間だと。

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