野球漫画の金字塔「キャプテン」~谷口タカオ その白球にかける思い~①

マンガ




昭和の時代、数々の名作野球マンガが世に送り出されてきた。
「ドカベン」「タッチ」「巨人の星」など、枚挙に暇がない。

そんな名作揃いの野球マンガにあって、私にとってバイブル的作品を一つ挙げるなら「キャプテン」の他にないだろう。
「あしたのジョー」の作者・ちばてつやの実弟、ちばあきお渾身の力作だ。

この作品には、愛だの恋だのといった恋愛話は一切出てこない。
ただひたすらに、等身大の野球少年たちが白球を追いかける。
その純粋さ、ひたむきさの結晶が、我々の心を穿つのだ。

丸井、イガラシ、近藤と続く墨谷二中のキャプテンの系譜。
どのキャプテンも個性的で魅力あふれるキャラクターだが、私の中の“キャプテン”といえば、何といっても谷口タカオである。

オープニング曲「君は何かができる」の前向きな曲調も素晴らしいが、エンディングで流れる「ありがとう」の郷愁を誘うメロディは格別の趣がある。
あの時代のテーマソングはどれもが、アニメの世界観を大切に表現する名曲の宝庫であるが、特に「ありがとう」は心に沁みる。
そして、そのテーマソングを聴く時、なぜか私は“キャプテン”谷口タカオを思い出すのだ。

そんな“キャプテン”谷口タカオの、白球にかける思いが凝縮した名場面を振り返る。


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父との猛練習

谷口は野球の名門・青葉学院から2年の途中で、墨谷二中へ転校してくる。
とはいえ、青葉では2軍の補欠にくずぶっていた。

ところが、練習初日に青葉のユニフォームで登場したこともあり、誤解されてしまう。
とてつもない実力の持ち主だと…。

転校先では今度こそ、伸び伸びと野球ができると喜んでいたのもつかの間、谷口は買い被られてしまい青くなる。
息子の情けない姿に、父は叱咤する。
「青葉の選手として通用するぐらい、腕を磨けばいいんだよ。やりもしねぇうちから!こい!」

近所にある神社の境内で、父と子の特訓が始まった。
野球未経験で大工の父のボールも、満足に打てない谷口タカオ。
「いくら誤解でも、よくまぁ~お前なんかを青葉のレギュラーと勘違いしたね。俺なら、補欠でも信じねぇよ」

その言葉に奮起し、打ち返した打球が父を直撃する。
「父ちゃん!大丈夫?」
「べらぼうめ!お前の打球ごときで、ぶっこわれる体じゃねぇよ」
啖呵を切る父は、息子へボールを投げ続けた。

肩で息をするふたり。
「ちっとは、マシになってきたぜ」父は心の中で呟く。
「オレ、やるよ!父ちゃん!」息子も無言で気力を振り絞る。

そして、父は大工の腕を活かして夜中まで、息子のために特訓マシンを作り始める。
そんな父に息子は布団の中で、そっと「ありがとう」と礼を言うのであった。

職人気質でべらんめえ口調の父親だが、息子を思う気持ちは誰にも負けない。
誤解され怯む息子を叱咤激励し、共に困難に立ち向かう姿は親の鑑である。
勉強を教えることよりも、人生に大切なことを身をもって示すことこそ、教育なのではないか。
そして、自分のために練習に付き合ってくれ、深夜までマシンを作る父に無言で感謝する息子。
そんな父と子の姿が、古き良き時代を偲ばせる。

入部して早速、期待を一身に背負う谷口は、いきなり他校との練習試合でスタメンに抜擢される。
やはりというべきか、谷口は打てば三振、守ってはエラーの連続。
実力不足を露呈してしまう。

しかし、それでめげないのが、“努力の人”谷口タカオなのである。
早速、神社の境内での特訓を父に申し出る。
今度は威力抜群の特訓マシンを使った、至近距離からの守備練習だ。

さすがの父も、無謀とも思える申し出に二の足を踏む。
だが、「青葉のレギュラーだったら、この辺からでも捕れるんだ。頼むよ、父ちゃん」と懇願する息子の熱意に突き動かされる父。
「よし、分かった!それが男ってもんよな!」

猛烈な打球が谷口を襲い、体中を容赦なく打ちのめす。
痣だらけになるも、なおもボールに食らいつく。
その日から、朝も夜も、それこそ寝る間も惜しんで、父と子の猛特訓が繰り返された。

だが、谷口はそれでも一向に上達しない。
部活で受けるノックの打球も、まともに捕れないままなのだ。

相変わらず続く神社の特訓。
何度やっても、ボールをグラブに収めることができない谷口は「ダメだ…どうしても捕れない…どうすればいいんだ…」

膝をつき悔しがる息子に、あたたかい眼差しで父は語りかける。
「もう諦めろ。お前が2軍の補欠だってことを、キャプテンに正直に話すんだな」

その言葉に涙があふれ出す谷口タカオ。
「いいんだ。いいんだ。よく、ここまで頑張ってきたな」
涙ぐむ父の胸に息子は顔を埋めた。
「よし、よし。父ちゃん、お前を見直したよ。泣くなよ、泣くなってば」

私はこの父と子に、熱いものがこみ上げてくる。
最初は泣きごとを言いながらも、谷口はユニフォームがぼろぼろになるまで練習に明け暮れた。
そんな息子だからこそ、普段は厳しい職人気質の父も認めたのだ。
そして、結果ではなく、その過程、努力をきちんと評価できる谷口の父は尊敬に値する。
こういう真の愛情を注ぎ、子を導ける親が今どれだけいるのだろう…。
まさしく“この親にしてこの子あり”である。
谷口父子に、あるべき親子の姿を見せてもらったような気がした。

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キャプテン誕生

翌日、谷口は正直に話すべく、キャプテンのもとに向かう。
だが、キャプテンは「後にしろ。谷口!早く守備につかんか!何グズグズしてる!」と檄を飛ばす。

父特製の特訓マシンにも負けぬ、キャプテンの強烈無比なノックの雨あられ。
だが、どんなボールにも諦めず飛びつく谷口タカオ。
その様子に他の部員は感嘆しながらも、訝しがった。
「それにしても、最近のキャプテン、谷口にやけに厳しいな」
その様は、谷口が壊れるのではないかと、部員たちに心配されるほどだった。

そして、ついに谷口はノックのボールを横っ飛びでキャッチした。
思わずほころぶ、キャプテンの顔。

月日は巡り、3年生の卒業が訪れる。
現キャプテンから、来期のオーダーとキャプテンが発表される。
あの谷口が、なんと4番でサードだという。
それ以上の驚きは、その谷口がキャプテンに指名されたのだ!

狼狽する谷口。
4番バッターでさえ荷が重いというのに、キャプテンまで…。
「ちょっと待ってください。僕はこのチームに入って一番日が浅いっていうのに。冗談じゃないです!」

だが、他の部員たちは大賛成の様子である。
谷口さんをおいて、他に適任はいないのだと。

「谷口、みんなを頼んだぞ!」
そう言うと、キャプテンは去ろうとする。

谷口は後を追う。
「キャ、キャプテン!」
「どうした?」と振り向くキャプテンに、谷口は正直に言う。
「僕には、キャプテンなどやる資格がありません。実は、青葉の野球部で2軍の補欠だったんです。何度か言おうかと思ったんですけど、言いそびれて…」

「そんなことはお前のプレーを見て、一目で分かったよ」
キャプテンは笑顔で言う。
「え!?」
驚く谷口。

「今やお前には実力があるじゃないか」
「実力?待ってください。僕は誤解から青葉のレギュラーとして期待されました。今は、その期待を裏切らないように努力するだけで精一杯なんです。それを、キャプテンなんて…」

谷口の双肩に手を置きながら、キャプテンは語りかける。
「谷口はその期待に立派に応えたじゃないか。影の努力でな」

「あ!…知ってたんですか…」
谷口はまたもや驚きを隠せない。
「ああ。そして、今や君は青葉のレギュラーにも負けないほどの実力をつけた。どうだ、谷口!今度はキャプテンとして、みんなの期待に応えてくれんか?」

「僕たちからもお願いします!」
「引き受けてくださいよ、谷口さん!」
部員たち全員から声が上がる。

頷くキャプテンの顔を見ると、谷口タカオは承諾した。
「父ちゃん、オレ…また頑張らなくっちゃ」と心の中で呟きながら。

私は、個性的な墨谷二中のキャプテンの中で谷口タカオの次に好きなのが、谷口の前にキャプテンを務めた“先代キャプテン”なのである。
純粋なキャプテンとしての資質と見識だけならば、歴代No.1ではないだろうか。

神社の境内で父と猛特訓する谷口の努力に気付き、陰からしっかりと見守る、千里眼とあたたかい心。
その姿は、“俺流”落合博満の練習を何時間にも渡り、気づかれないように見守り続けた稲尾和久監督を想起させる。
青葉から転入してきた谷口に浮かれる墨谷二中ナインにあって、ただ一人、その実力を一瞬にして見抜く洞察力。
陰で必死に努力を重ねる谷口のために、心を鬼にしてノックを浴びせる、嫌われることも厭わぬ厳しい姿勢。

先代キャプテンこそ、リーダーとしての資質を併せ持つ、真のキャプテンだと感じずにはいられない。

父、先代キャプテン、自身の努力が相まって、心に残る“キャプテン”谷口タカオが誕生した。

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