インターハイ予選の合間に参加することになったアドバンスカップ。
本大会は非公式戦ですが、東京近郊のチームがこぞって参加するため、多くの試合を経験できる絶好の機会です。
しかし3年生は学力試験、2年生たちは赤点のオンパレードによる補習が重なったため、なんと1年生だけで戦うことになりました。
果たして、その結末やいかに…。
アドバンスカップ開幕
アドバンスカップ予選、見事1位通過を決めた大神高校。
1年だけのチーム編成で、この結果は大健闘といえるでしょう。
その影には、実戦経験豊富なマロンと春がチームを引っ張るべく、普段以上に精力的な動きを見せたことがありました。
そして、もう一人の立役者が羽鳥ひよこだったのです。
雌伏のひよこ
アドバンスカップ対策で1年生を鍛えるため、上級生とペアを組む師弟練が行われました。
ペアの内訳はチームのエースとして得点力向上を目指すマロンと藤咲音、PGとしての心得を学びたい花江とワンコ、高校からバスケを始めた同士の小緑つぼみとベリー、ゲームメイクのブラッシュupを図る春と水神まもりです。
各々いい雰囲気で練習が行われる中、唯一ピリついた空気が漂っていたのが、ひよこと環部長のペアでした。
182cmのひよこは恵まれた体格にもかかわらず、元来の性格も手伝って今ひとつプレーに闘争心が感じられません。
その点を部長に厳しく咎められ、普段は陽気な彼女もさすがに意気消沈してしまいます。
落ち込むひよこに、マネージャーのまもりは意外な話を切り出します。
あの圧倒的な存在感と凛とした佇まいを崩さない環部長ですが、入部したての頃は己の不甲斐なさに毎日涙を流していたと言うではありませんか!
その姿は今のひよこそっくりです。
きっと環部長は高いポテンシャルを持ちながら、気持ちの弱さでそれを発揮できないひよこに在りし日の自分を重ねていたのでしょう。
だからこそ、後輩の成長を促すため、より指導に熱が入ったのでした。
部長の想いを知ったひよこはその日以来、歯を食いしばり厳しい練習に耐えていきました。
ひよこの飛翔
大神高校女バスの1年は5人しかいません。
つまり、交代なしで午前中の予選を戦わねばならなかったのです。
特に、バスケ初心者のつぼみと花江は体力面に不安がありました。
そんな苦しいチーム事情を救ったのが羽鳥ひよこです。
高身長の彼女がゴール下を席捲し、ことごとくリバウンドをものにしたため、大神は余裕のある試合展開に持ち込めました。
昼食休憩を挟み、午後から始まった決勝トーナメント1回戦。
対戦相手は1年生ばかりとはいえ、神奈川の全国大会常連校・心海第一です。
メンバーは春やマロンと同じ浦西中出身の雪穂と有紗、天才バスケ少女・虎白など強豪校の名に恥じぬ俊英揃いです。
中でも身長180cmのセンター貝塚京は、気迫みなぎるプレーでひよこを圧倒しました。
予選の相手とは異なりサイズ的に互角なうえ、テクニック・ポジションニングでも一枚上手の京に、ひよこは心が折れかかります。
そんな中、こけしちゃんが声を掛けました。
「ご機嫌いかがですか?」
なんと場違いなセリフでしょう(笑)
ですが、花江の声掛けをきっかけに、ひよこは貝塚京への恐怖心を吐露します。
すると、花江はひよこの心を救う言葉を贈りました。
「普段の練習相手が試合相手を上回っているんですから…怖がることないじゃないですか。だって、環部長さんより強い生物なんて遭遇する可能性は極めて低いのでは?」
その言葉に天啓を得たひよこは、まじまじと京を見つめます。
“確かに!!部長と比べたら小っちゃくて可愛いかも…”
そして、花江は虚心坦懐に打ち明けます。
「午前中、私は体力温存を命じられていたこともあり、普段のディフェンスではしないような動きをしました。安心してたんです。ひよこさんがいるから。師弟練…観てました…ひよこさんがゴール下にいてくれたら頼りになります」
こけしちゃんの説得力…。
当然、ひよこは勇気百倍です。
「春!外のチェックもっと出ていいよ。後ろは…私に任せて!」
春は気が付きました。
ひよこの表情の変化に!
ゴール下、ひよこは京と競り合いながら部長の言葉を思い出していました。
「ひよこ…センターなら手に触れたボールは絶対取れ!でも『ただ取る』だけじゃ意識が足りない。いいか…触ったボールは『もぎ取れ!』いや…『ちぎり取れ!』」
そして、先にボールを掴んだ京から文字通り『ちぎり取った』ひよこ。
それは、この試合初めて貝塚京に競り勝った瞬間でした。
「いいか…ひよこ。センターは柱だ!チームに降りかかる試練や逆境は私たちが跳ね返すんだぞ」
この部長の言葉を胸に、不退転の決意でゴール下の番人と化すひよこ。
“なんだ…雰囲気が変わった…”
ひよこの突然の変化に、さすがの京も戸惑います。
そして、ひよこの活躍はまだまだ続きます。
より一層激しいプレーをぶつけてくる京に一歩も引きません。
応援に駆け付けた環部長は聞こえるはずもないのに、思わず愛弟子にアドバイスを送ります。
「そうだ!我慢だ」
ゴールから離れた位置で、シュート態勢に入る心海第一の“技巧派”海月則子。
シュートを阻止すべく、ひよこは手を伸ばしました。
咄嗟に機転を利かせ雪穂へのパスに切り替えますが、ひよこはそこにも付いていきます。
「我慢だ」
またもや、京にパスを散らしディフェンスを振り解きにかかります。
しかし、またしてもひよこは食らいつきました。
「我慢…」
ぎゅっと手を握る環部長。
再びゴール下、センター対決で相まみえる京とひよこ。
フィジカルだけでなくテクニックも併せ持つ京は、シュートフェイクを織り交ぜ揺さぶります。
ところが、覚醒したひよこは完璧に読み切っていました。
「今だ!飛べひよこ!」
まるで部長の声が聞こえたように、飛翔するひよこ。
バゴッ!!
今まさにシュートを打たんとする京の持つボールを、強烈なブロックではたき落としました。
「ナイスブロック!」
風間監督の声が飛び交う中、ひよこの躍動は止まりません。
「ルーズボール!」と声を出す京を尻目に、ひよこはボールを追いかけます。
「そうだ!!プレーが止まるまで!」
まるで以心伝心の如く、ひよこは部長の想いそのままにプレーします。
ルーズボールを拾ったマロンですが、こともあろうにレイアップシュートを外してしまいました。
疲労の限界が脚にきていたからです。
有紗がリバウンドの捕球態勢に入り、万事休したと思ったその時でした。
最後まで走り続けたひよこが、再び飛翔したのです。
ボールを奪ったのは、高さで圧倒したひよこでした。
そこに京が追いすがります。
センターの意地で跳躍し、ひよこのシュートにブロックを仕掛けました。
ところが、ひよこは先ほど京が見せたシュートフェイクをお見舞いしたのです。
一拍の間を置いた後ひよこのシュートは決まり、と同時にタイミングをずらされた京はファールを犯します。
バスケットカウントを取られ、フリースローまで与えてしまいました。
この一連のプレーは、心海第一戦のハイライトの一つです。
中学まではエンジョイバスケに興じたこともあり、ひよこは気持ちの弱さに課題を抱えていました。
ところがどうでしょう。
部長との師弟練を乗り越え、花江から授かった天啓を勇気に変え、内なる自分に打ち克ったのです。
何度もパスに振られながらも食らいつき、京のシュートをブロックした瞬間は思わず声が出ました。
忘れてならないのは環部長です。
ひよこのプレーに幾度も「我慢だ」とひとり声を出し、最後のシュートブロックの場面「今だ!飛べひよこ!」と愛弟子の飛躍を確信します。
ひよこのポテンシャルを誰よりも信じていた環部長。
そんな彼女の信頼の厚さが垣間見えた場面でした。
そして最後まで諦めずボールを追い続け、バスカンまで取ったゴールシーン。
感動のあまり言葉も紡げません。
自らの殻を破り成長を遂げた、ひよこの飛翔。
それは本人の努力、そして環部長の海よりも深い「愛情」のなせる業でした。


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