読めば応援したくなる!「ハナバス 苔石花江のバスケ論」レビュー第5論『名将 穴熊忠と風間ゆかり』

マンガ・アニメ




『ハナバス』といえばストーリーだけでなく、個性豊かな選手の活躍が魅力を引き立てます。

ですが、彼女たちの他にも感銘を受けずにはいられない名将たちが登場します。

その人物とは護円高校監督・穴熊忠と、我らが大神女バス顧問・風間ゆかりです。

穴熊忠

伝統のゾーンDFとチームワークで、予選1回戦とは思えぬ熱い戦いを繰り広げた護円高校。
ときに、主力メンバーのちま、めぐ、ぐら、ゆっぴの3年は陰キャ特有のネガティブ思考に陥ることがままあります。
そんなとき、穴熊監督は柔らかい物腰で建設的な言葉を送ります。

それは、試合開始まもなくのことでした。
ベリーの気迫とスピードに押され意気消沈し、護円メンバーは己の不甲斐なさに下を向いています。
絶妙なタイミングでタイムアウトを取った穴熊監督は、そんな彼女たちに優しく声をかけました。

「ほら顔上げて!どこが悪かったじゃなく、これからどうするかを話し合わないと。相手の早いペースに合わせない。プレーも思考も、うちはうちの得意なペースで」

穴熊は選手の目に光が戻ったことを見てとると、これ以上出しゃばらず、あとは彼女たちの自主性に任せます。

私はこの一連のやり取りに、穴熊監督と選手の厚い信頼関係を感じました。
タイムアウトでは、ほとんどの監督が口角泡を飛ばし、一方的に指示を送り続けることでしょう。
でも、穴熊監督は必要なアドバイスを送り軌道修正を行うと、一歩引いて温かい眼差しで見守ります。
これは常日頃から、選手自ら考え行動する習慣を身に付けさせ、チームのストロングポイントを皮膚感覚で熟知させていればこその態度だと思います。

もちろん穴熊は、決して放任主義ではありません。
その証拠に、スーパープレーを連発する藤咲音の独壇場になりかけたとき、チームという組織の力で封じ込める戦術に切り替えたのは、彼ならではの采配の妙でした。
この辺は、本当の意味での監督不在に苦しむ大神との違いを浮き彫りにさせています。

みなさんもご存知のとおり、護円の3年生は地味で陰キャで凡庸です。
将棋の駒で喩えると、“歩”ではないでしょうか。
ですが、穴熊監督は彼女たちを3年間手塩にかけ、ついに“と金”にまで育てあげました。
最も弱い駒だった“歩”が、守備の要である“金将”と同じ価値を持ったのです。
そこに、飛車角なみの戦力を持つ大駒のアリーを融合させ、「宇宙一の絆」を誇るチーム護円を創りあげました。
試合後の回想シーンにもあるように、気弱でひ弱な彼女たちを護円史上最強チームにまで育てるのに、どれ程の根気と忍耐を要したことでしょう。
それこそ、倦まず・弛まず・諦めず、愛情を注ぎ続けたことでしょう。
だからこそ、教え子の頑張りと逞しく成長した姿に感涙を禁じ得なかったのです。

護円高校女子バスケットボール部監督・穴熊忠。
この名将なくして、“素晴らしき敗者”チーム護円は存在しえなかったことでしょう。




風間ゆかり

バスケ未経験者ながら、顧問となった風間ゆかり。
当初は爽英女学院との練習試合を勝手に組み、試合直前まで部員に伝え忘れるなど、天然な性格がクローズアップされました。

ですが、実は好人物であることを、のちに我々は知ることになります。
彼女に好感が持てるのは、マネージャーの水神まもりにバスケというスポーツを一から学ぶ姿勢です。
そして、そんな頑張り屋の一面を端的に表わすのが、新米顧問にもかかわらず審判のライセンスを取ったことでしょう。

もちろん、これだけで名将と呼ぶにはおこがましく感じるに違いありません。
しかし彼女は、多くの人々を唸らせる名言を残しました。

護円を破り、勢いに乗る大神高校はインターハイ予選の合間を縫い、非公式戦のアドバンスカップに出場します。
東京周辺の高校と数多くの試合ができ、実戦形式でいろいろと試すことができるからでした。
ところが諸事情が重なり、1年生だけで試合に臨むことになりました。
未熟な面もある彼女たちですが、なんとリーグ戦を1位で突破します。
やはり、爽女や護円といった強豪との真剣勝負で揉まれた経験が生きたのでしょうか。

そして、リーグ戦1位同士で争うトーナメント初戦の相手は、インターハイ神奈川代表の心海第一高校に決まります。
さすがは、全国常連の名門校。
28-12と大神を圧倒します。
完全に心海第一の勢いに押され、心が折れかけたとき、新米顧問・風間ゆかりがタイムアウトを要求しました。

タイムアウト中、夏凛の悪癖が出て一方的にまくし立てます。
挙句の果てに、練習でもやったことのないゾーンDFを試すよう主張し始めたのです。
経験の浅い1年生チームは、今まさに空中分解するかに思えました。

すると、風間ゆかりが口を開きます。

「先生からもいいですか?」

振り返る選手たちに、風間先生は予想だにしない発言をします。

「この試合は、私たち大神高校の負けです」

「は?どういうことですか!?まだ時間はあるんですよ!あきらめるんですか?」

食ってかかる夏凛に、風間ゆかりは言いました。

「はい。“あきらめる” その語源のとおり、現状を“明らか”にしましょう」

風間は続けます。

「残り時間は3分48秒で16点ビハインドですよね。1回の攻撃に20秒かかるとすれば両校ともに6回ずつ攻撃可能です。6回全て得点できたとしても追いつけません」

「スリーなら追いつけます!」

反論する夏凛に、風間は冷静に返します。

「そうですね。3Pを一本も外さず、心海第一の得点を0に抑えることができれば」

勝ち気な夏凛も、現実を前に言葉が見つかりません。

風間監督は真摯に語りかけました。

「公式戦なら一か八かの作戦にかけるしかないかもしれません。でも…今日は非公式の大会、言わば練習試合です。そこで先生からご提案です。
残り3分48秒を勝ち切りませんか?この貴重な機会を改めて丁寧なバスケで…強くなるために使いませんか?次勝つために!」

実は、風間ゆかりも内心では葛藤していたのです。
まだバスケの右も左も分からない自分が、こんな提案をして良かったのかと。
しかし、風間監督は選手を不安にさせないよう心のうちに仕舞いこみ、一人ひとりに感謝の言葉を贈ります。

「有舞さん!朝からずっとチームをまとめてくれてありがとう」

「栗原さん!体力が心配な周りの分も走ってカバーしてくれるの、先生見てるから。プレーでチームを引っ張ってくれてありがとう」

「羽鳥さん。リーグ戦でチームの体力を温存できたのは、羽鳥さんがゴール下を圧倒してくれたからだよ。心海第一さんが相手でも、できるって先生信じてるから」

「小緑さん。基本の動きはバッチリだし、声出しもすごく周りの力になってるよ。思い切ってどんどんチャレンジしていいからね」

「苔石さん。チームに合わせていろんなこと考えてくれてるでしょ。気づいたことは遠慮せず言ってくれていいからね」

リーグ戦では審判も務める中、これほどまでに選手たちの活躍を見守っていた風間ゆかり。

「あきらめるとは明らかにする」「次勝つために目先の勝ち負けよりも丁寧なバスケをする」。
これらの名言が一人ひとりへの感謝により、一層輝きを増すように感じるのは私だけでしょうか。
改めて文字に起こしていくと、素晴らしい数々の名言が心の奥に響きます。

バスケ漫画の名言といえば『SLAM DUNK』に登場する安西先生の「諦めたらそこで試合終了ですよ」が有名です。
なるほど、風間ゆかり先生の言葉は真逆のアプローチにも感じます。
ですが、きちんと非公式戦なればこそ!という文脈で語っているのです。

その時々において、教え子に一番大切なことを伝える。
これこそが、若者を導く教育者のなすべき役目なのではないでしょうか。
その点において、安西先生も風間先生も全く相違ありません。

あと感じたのは、風間先生はバスケこそ初心者なものの、なにかスポーツをやっていたのではないでしょうか。
なればこその洞察力、そして高い説得力を有するのだと思った次第です。

さらに、彼女が只者でないシーンがあります。
それは爽英女学院との練習試合に敗れた直後のことでした。
敗北の悔しさを乗り越え、選手たちは前を向き、次の勝利を誓いあっていました。
その様子に、風間先生はドアの前にいたにもかかわらず、ロッカールームに入ることを自重します。
教え子が自分の力で起き上がれるときには、あえて踏み込むことはしないのです。
今回のように、大人の知見を必要とする場面で手を差し伸べる姿とは対照をなしています。

私は思うのです。
風間ゆかり先生の教え子と向き合う姿勢こそ、指導者のあるべき姿なのだと。




まとめ

『ハナバス』が誇る名将、穴熊忠と風間ゆかりを紹介しました。
経験豊富な穴熊忠に比して、バスケ初心者の風間ゆかりですが、選手への適切なアドバイスでは全く遜色ありません。

そんなふたりに共通するのは、ときには「見守る」ことができるマインドです。
どうしても人は未熟な者を目にすると、必要以上に口を挟みたくなる生き物です。
しかし、若者もいつかは自分で判断し、一人立ちしなければなりません。
教育者ならば尚更、こうした成長を促す指導が必要です。

教え子を信頼し「見守る」姿勢を大切にする。
もしかすると、名将とはこんな資質も併せ持つ、真の意味での“大人”なのかもしれませんね。


ハナバス 苔石花江のバスケ論(1) (マガジンポケットコミックス)

コメント

タイトルとURLをコピーしました