読めば応援したくなる!「ハナバス 苔石花江のバスケ論」レビュー第4論『素晴らしき敗者』

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初心者ながら、献身的なプレーで流れを引き寄せた小緑つぼみ。

彼女の活躍もあり、大神高校は第3Qで逆転に成功します。

そして、勝敗の行方は最終第4Qへと委ねられることになりました。


ハナバス 苔石花江のバスケ論(1) (マガジンポケットコミックス)

アリーの恩返し

第3Q終盤で苦しい展開に陥った護円ですが、この窮地に黙っていないのがチームの大黒柱アリーです。
インターバルの間、アリーの脳裏には留学直後の日々が甦りました。
アニメオタクのアリーは母国アメリカでは、なかなか自分の趣味について理解されません。
なので、留学が決まった際には“アニメ大国”日本ならばと!期待に胸を躍らせて来日したのです。

ところが、同じ趣味を持つクラスメイトはいませんでした。
いや居たかもしれませんが、金髪で青い目をした異国の少女の勢いに引かれてしまい、早くもアリーは孤立します。

そんなとき、アニメグッズを身につけるアリーに、恐る恐る話しかけたのが女バスの4人組でした。
陰キャの彼女達もまたアニメオタクだったのです。
この日、アリーは救われました。
それ以来、アリーは孤独な日常に別れを告げ、バスケ部に入部したのです。

こうした背景も手伝って、アリーにも絶対に負けられない理由がありました。
第4Q開始早々、3連続スリーポイントを決めるなど、アリーの攻撃が止まりません。
再び護円がリードを奪い、逆に7点もの点差をつけました。




遠くの景色

この状況に焦ったのが、ベリーです。
元々、陸上という個人競技の選手だったベリーには、チームワークという概念が希薄です。
苦しい場面になるほどワンマンプレーに走る傾向があり、そのことが更にチームを苦境に追いやりました。

その時です。
師弟関係を結ぶ“こけしちゃん”がベリーに懇願します。
誤ってベリーのパンツを脱がせながら(笑)

「バ、バ、バスケ…ご一緒させてください!ベリー先輩に教わりました。自分にも厳しくできること。自分の思いを伝えること。自分を知る必要があること。それらは全部…チームのために!勝つために!」

愛弟子の言葉がベリーを遠い記憶に誘います。
あれは、入学したばかりのことでした。
今大会は実家の都合で出ていない、リュウ先輩にバスケ部にスカウトされたのです。
人と関わることが苦手なベリーは、乗り気ではありません。
ところが、話しているうちにリュウも同タイプだと気付きます。
なので、なぜチームスポーツをしているのか訊きました。

リュウは語ります。

「んー…1人はまぁ充実するか、人に合わせる必要もないし…集中は最高だし、孤独は人をクリエイティブにする」

そして、言葉を継ぎました。

「でも…それだけじゃもったいないらしい。昔お得意様に教えてもらったんだよ。
 1人でなら“早く”行ける。
 みんなでなら“遠く”へ行ける!」

リュウとの出会い、そして、この箴言をきっかけにベリーはバスケットボールの扉を開いたのでした。

いつの間にか逸る気持ちが消え、ベリーは冷静さを取り戻します。
顔を上げた先には、観客席で見守るリュウがいました。
自らの思いの丈を憧れの先輩に打ち明け、迷惑を掛けたチームメイトに頭を下げるベリー。

こうして大神は心機一転、打倒護円に邁進するのでした。




こけし劇場

チームの息が合い始め、少しずつ護円のゾーンDFを攻略する大神。
一方、護円も一歩も引かず、熱い戦いを繰り広げます。

そんな中、チームプレーに課題を残す花江は、そのことを露呈します。
パスを出すとき、相手に視線を送り過ぎるため、パスコースを読まれ始めました。

そして、同じPGの妹を意識し過ぎるあまり、謎の行動に打って出ます。
パスを受けた花江は目を瞑り“ぷいっ”と横を向くと、誰も居ない場所に“ぺっ”とボールを投げ捨てます。
無人のコートに虚しくバウンドするボール…。

その奇妙な光景に藤咲音は硬直しました。

“へ…下手―!!なんちゅー顔や…ノールックのつもりか!?どこ投げとんねん…「ぺっ」てなんの音??”

謎のプレーで敵味方とも呆れさす“こけしちゃん”ですが、タイムアウト中に提案します。

「いえ…あ〜…その…今この場面に限定するのですが…皆さんのおかげで私まだ走れます。残り1分30秒…全力でプレーできると思います。確実な得点を目指すなら1on1が良いかと…」

そして、花江は冷徹に根拠を述べました。

「理由としましては…もう護円高校に私を止められる人がいないからです」

捕食者

タイムアウトが終わり、コートに立つ銀冠ちまは絶望の二文字を噛み締めていました。

“今年の護円高校は過去最強!今年こそ全国大会へ行く!勝負は決勝リーグでほぼ確実に当たる爽英女学院と遊國学園…そう思っていた”

1on1を仕掛け、護円のDFを歯牙にもかけず得点を重ねる花江に、ちまは思います。

「なぜ…こんな時間帯まで隠していた?全く止められる気がしない。小学生の頃から10年間バスケをやってきた。さすがに分かる…この子は私たち凡人とは違う」

アンクルブレイクの連発になす術のない護円。
技術で対抗できないのなら、せめて走って追いかけたいところですが、体力も限界を迎えていました。
伝統のゾーンDFを完璧にこなすには、レギュラーメンバーの5人が不可欠なこともあり、ここまで一度も交代していないツケが回ってきたからです。
だからこそ、花江は「今この場面に限定する」と言ったのです。

試合終了寸前まで切り札を温存されていたら、たまったものではありません。
きっと、並のチームなら心が折れたことでしょう。
しかし、護円高校は違います。
ゴールへと疾走する花江に、ちまが立ちはだかりました。

「やられるのか?何もできず…ふざけるな!」

その瞬間、護円高校部長・銀冠ちまはバスケ人生で最高の一歩を踏み出し、会心のDFで花江を迎撃します。
この土壇場で10年間の集大成を結実し、不屈の精神を見せつけるとは!

しかし…無情にも苔石花江は躱し、ゴールを決めました…。




不屈の護円魂

花江の動きについて行けず、コートに転倒する銀冠ちま。
ですが、護円に宿る不屈の魂は終わりません。

「まだデス!まだ時間ありマス!!アリーが必ず逆転します!」

その掛け声に呼応する雁木巡。

「おらぁあ!!取られたぐらいで終わんね―よ!陰キャのしつこさなめんなよ!!」

転倒するちまに肩を貸し、最後の力を振り絞ります。
そしてアリーへとパスが通り、藤のブロックを後ろに飛びながら3ポイントシュートを決める青い目のエース。

「私たちのような凡人だってチームを助けることができる!」

ゆっぴとぐらもスクリーンをはじめとし、チームのために体を張っています。

「繋げ!死ぬ気で繋げ!!お願い…!アリー!!」

ちま、めぐ、ぐら、ゆっぴ。
4人の想いを乗せたボールがアリーに届きます。
しかし、死角から音もなく忍び寄る花江。
背番号13の捕食者は、アリーからボールを奪い去りました。

護円の絆は宇宙一

「はあ〜負けた〜 高校3年まで続けた結果が1回戦負けかよ」

ボヤくめぐに、ぐらが頷きます。

「あはは。私たちらしいね。たけど、いざ引退ってなると、こんな感じなんだね」

ちまも続きました。

「先輩方が引退された時はあんなに寂しかったのに…不思議と涙も出ないであります」

そんな会話を交わす3年生らとは対照的に、涙が止まらないアリー。

「すみません…助けてもらったのに…恩返しできませんでシタ」

夏のインターハイで散った3年生の多くは、この大会が最後になることがほとんどです。
なぜならば、受験を間近に控えていることもあり、冬の大会には出ずに引退するからです。
でも、マガポケのコメント欄を読むと意外と試合直後には、当事者の3年生は実感が湧かず涙が出ないこともあるようです。

試合後、引退する3年生を中心に最後のミーティングが行われました。
部長の銀冠ちまが代表して挨拶します。

「今日までありがとうございます。振り返っても楽しかった思い出ばかりです」

めぐがツッコミます。

「嘘つけ!部長就任の日プレッシャーで熱出してただろ!」

ぐらも追い打ちをかけました。

「集合も最初は言えず、しゅ、しゅ、しゅごー(酒豪?)って言ってたよね」

実はかくいう、ぐらも後輩に教えるとき顔が真っ赤になっていました。
ゆっぴはゆっぴで、差し入れしようとするも「こういうの逆に迷惑かな」と躊躇する始末。
中でも、めぐは「中2の夏、運命の出会いがあって」と彼氏の存在を匂わせていましたが、実は真っ赤な嘘でした。

「オレだけ火力高すぎるだろ!」とキレるめぐに、「事実であります!」と返すちま。
このやり取りに、後輩も思わず爆笑です。

「こんな私たちだから先輩方には心配かけたけど、穴熊先生のおかげで今やこんなに強くなれました。先生!ありがとうございました!」

監督に向かって晴れやかな笑顔で感謝する3年生たち。
とても最後のミーティングとは思えぬ和やかな雰囲気です。

教え子を見つめる穴熊は、昨日のことのように思い出が去来します。
ある者はうなだれ、またある者は涙しながら、立ち尽くす在りし日の4人を。

「よく頑張ったな…1年生の頃とは別人だ」

そして、最後に想いがあふれます。

「すまん…勝たせてやれなかった」

目頭を押さえ、涙する護円高校女子バスケ部監督・穴熊忠。
恩師の姿を見た4人は、堰を切ったように滂沱の涙を流します。
そして、万感の思いを込めて言いました。

「護円でバスケができて幸せです。ありがとうございました!」

護円高校女子バスケ部、最後のミーティング。
それは実に感動的な光景でした。

恩師・穴熊忠の涙を見た瞬間、涙が止まらなくなる、銀冠ちま・矢倉清香・雁木巡・美濃ゆうな。
彼女たちは陰キャを自称するように、一人ひとりは決して目立つ存在ではありません。
てすが、護円高校というワンチームになると、他のどのライバルよりも感情移入してしまうから不思議です。
ゲーム終盤においては、むしろ護円高校が主人公だと錯覚するほど、彼女たちにシンパシーを感じてしまいます。
かつて予選の1回戦で、これほどまでにライバルチームを深掘りし、敵チームのメンバーにフォーカスした作品があったでしょうか。

私がおじさんだからでしょうか。
最も共感し、最も熱いものが込み上げてきたのが穴熊忠の男泣きです。
誰よりも間近で教え子の成長を見守ってきた恩師。
堪えきれず、感情がこぼれ出した描写が心に迫ります。

そして、鋭い戦術眼と対比するような、悠揚迫らぬ物腰と包容力。
選手たちが厚い信頼を寄せるのも納得です。

そんな穴熊監督は試合後、さりげなく風間先生とコーチ役の水神まもりにアドバイスを送っています。
こうした何気なく描かれた場面にも、穴熊忠の人柄が窺えました。

また、アリーが花江にエールを贈ったシーンも心に残ります。
あれほど悔し涙を流していたというのに…。
心優しきグッドルーザーの涙の跡を見た花江。
きっと、去りゆくライバルの思いを胸に刻んだことでしょう。
最後に遠くから花江に手を振る、ゆっぴこと美濃ゆうなの姿にも心が温かくなりました。

読めばきっと応援したくなる!「ハナバス 苔石花江のバスケ論」。
本作品の快進撃は続きます!


ハナバス 苔石花江のバスケ論6 (本ストーリー収録巻
)

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