「闇に降り立った天才」赤木しげるの名言・名場面㊳
 通夜編part4『宿命のライバル 僧我三威』

マンガ・アニメ




命懸けの勝負

銀次が戻り、皆に赤木の意志が変わらぬことを告げる。
すると、赤木しげるの宿命のライバル僧我三威が5番手として名乗りを挙げた。

「いわずもがな…!あの男が説得なんかされるもんか!」

そう吐き捨てると部下に麻雀牌を持ってこさせ、「わしが止めてくる!」と不退転の決意で赤木との面談へと向かった。
そして、ノックもせずに赤木が待つ部屋へとズカズカ乗り込んで行く。

赤木はそんな僧我を一瞥すると、「フフ…すまなかったな…遠路はるばる」と鷹揚に声をかけた。

「冗談やない!勝手に死ぬなど許さん!どうしても死ぬというなら、わしとおどれの決着後だ…!」

いきなり勝負モード全開の僧我。
これには訳がある。
かつて僧我三威は裏世界最強の座に君臨し、十数年にも渡り無敗を誇っていた。
ところが赤木しげるが現れると、その異端の打ち筋、そして常識を超えた神域の闘牌に僧我の存在が霞んでしまったのである。
赤木しげるの方が格上だという世間の評価に煮え湯を飲まされ続けた人物、それが僧我三威だったのだ。

鼻息荒い僧我に「フフ…やれやれ…」と、あくまでものんびりとした佇まいの赤木しげる。

「死ぬ前に一勝負や!生き死のギャンブルや…!もし、わしが負けたら…死のう…!腹を切る!」

杖に仕込んだ長ドスを抜く僧我。

「その代わり、もし、わしが勝ったら…おどれが生きるんやっ…!」

「生きる?」

怪訝そうに赤木が聞き返す。

「死にたい言ってるヤツの命をもらっても意味がない。わしが勝ったら、おどれは何があっても生き抜くんや…!それでこそ、わしの死と初めて釣り合いが取れる…違うか…!?」

気色ばむ僧我。

「いや…なるほど、そりゃあ面白い。辛気臭い話や説教もあまり続くと、気が滅入ってくる…それより、そんな風に割切って勝負に持ち込まれた方が、かえって気が楽だ…!」

赤木は続けた。

「だからよ…本当に受けてやりたいんだが…ちょっとそれは無理だな…」

「どうして…!?」

意味深な赤木の言葉に、僧我は思わず問いただす。
重い沈黙の後、赤木しげるは切り出した。

「僧我…俺にはもう麻雀が…よく分からんのよ…」

その言葉に、涙があふれ出す僧我三威であった…。

所感

僧我三威は、赤木しげるの華のある打ち筋とは対極に位置する雀士であった。
重く不気味な雀風は、赤木しげるとはまた異なった“闇”を感じさせる。
そんな僧我は赤木の登場以来、その“神域の男”に対し単なるライバル心を超えた、おぞましいまでの憎悪や嫉妬を抱き続けてきた。

その僧我が赤木しげるの自裁を止めるため、自らの命を懸けて勝負に挑むのである。
そこまでして、赤木しげるに生きて欲しいという純粋な想い。
激しい物言いの中にも、赤木を助けたいという必死な思いが伝わってくる。

私は、この僧我三威という男の言動に熱いものがこみ上げた。
激しいライバル心を燃やし、打倒赤木しげるに心血を注いできた僧我。
だが、その裏で赤木しげるを本物だと認めていたからこそ、自らの命を張ってまで生かそうとするのだろう。
そんなことは、伊達や酔狂で出来はしない。
赤木しげるという至宝の存在を心から失いたくないのだ。

そして、僧我の挑戦状を受けての赤木しげるの返答…。

「僧我…俺にはもう麻雀が…よく分からんのよ…」

あの麻雀を打つために生まれてきたような天才が…。
この発言は、私にとって作中で最も悲しく衝撃的なカミングアウトだった。
加えて、アルツハイマーという病の恐ろしさを実感した瞬間でもあった。
僧我三威ほどの百戦錬磨の猛者が悲嘆に喘ぎ、涙に暮れるのもむべなるかなである。
思わず、こちらまでもらい泣きしてしまう。

赤木しげるがもはや麻雀が分からない現実を知り、私は少しだけ死を決意した気持ちが分かる気がした。
赤木しげるの一ファンにすぎない私ですら、これほどまでにショックを受けたのである。
当の本人の悲しみ、苦しみはその比ではないはずだ。
ましてや、それが赤木しげるなのである。
その卓越した能力だけを唯一の恃みに生きてきた孤高の勝負師。
そんな男が、己が矜持を失ってまで生きたい筈がないのである。 

ナイン①

零れ落ちる涙を拭い、僧我は言葉を絞り出す。

「誰が…麻雀をやるって言った!?牌は使うが、別種目や…!互いに1から9までの牌を使っての心理戦…わしとおどれの最終戦は…この“ナイン”や…!」

ナインとは数牌なら何でもよく、たとえば筒子を使うとする。
まず、互いに1筒から9筒までを持ち駒とする。
そして、互いに手の内から一牌を選択し、伏せて出す。
数の大きい方が勝ちとなり、自分の出した牌と相手の出した牌の数の合計が勝ち点となる。
例えば自分が5筒を出し、相手が4筒を出したとする。
自分の出した数字の方が大きいので勝ちとなり、5と4を足した9が勝ち点となる。
ちなみに、引き分けは両者ノーポイントとなる。
これを9回繰り返し、勝ち点の合計が多い方が勝利するというゲームなのだ。

僧我の説明を聞き、赤木は尋ねた。

「で、このナイン…俺が負ければ自殺を取り止め、俺が勝てばお前が死ぬってことだったな…?」

「そうだ!」

僧我は頷く。

赤木しげるはタバコに火を灯し、こう言った。

「フフ…僧我…引き分けは勝負なしだぜっ…!再戦もなしだ!最初の…このギャンブルのなかった状態に戻る…!つまり、お前は生き、俺は死ぬ…!」

ざわ…ざわ…。
部屋の空気が一変する。

「構わないな、それで…!」

「ええやろ…引き分けたら死なせてやるわっ…!好きにせいっ…!」

赤木しげるの有無を言わせぬ迫力に、承諾する僧我。

「なら…やるかっ!このナイン…!」

赤木しげるの言葉を皮切りに、ついに宿命のライバルふたりの最終決戦が始まった。
このナイン。
単純のようで奥が深い。
いつ切り札の8筒や9筒を出すか…あるいは捨て駒の1筒や2筒でいかに上手く負けるか…。
9筒で勝っても相手の出した牌が1筒ならば、それは負けに等しい。

1牌目…お互い4筒で引き分け。
2牌目…お互い2筒で引き分け。

「思ったとおりや…赤木に勝つ気はない!最初から引き分け狙いや…だが勝つ気を薄めた、そんな薄味の赤木なら…勝機ありやっ!」

心の中で快哉をあげる僧我。

3牌目…またもや互いに6筒…。

いくら赤木しげるが引き分けを狙っているとはいえ、3連続引き分けなど意図的に出来るのだろうか。

“怪物め!しかし…倒さねば…倒さねば赤木が死ぬ…!赤木しげるを死なすわけにはいかない…!”

必死にもがく僧我。

4牌目…両者3筒。

“どないなっとるんや…ほとんど無作為で切っとる牌で…”

5牌目…共に7筒。

“バカな!なんで…まるで悪い夢のよう…”

苦悶する僧我。
だが、曽我は虚心坦懐に告白する。

「クク…どないなっとるんや?化け物が…しかし、そんなおどれと鎬が削れたわしは幸せやった…巡り会えてラッキーやった…もうお目にかかれんわ…おどれみたいな男には…!」

さらに言葉を継ぐ。

「だからってわけじゃないが、何も死ぬことはない!ぼけたっていいじゃねえかっ…!」

「茶でも飲んでろってか…」

「そうさ…!そういう幸せもある!」

「ククク…いらねえよ!そんな幸せ…!勝負が出来なきゃ無意味だ…!勝負が…人生の全て…!」

 赤木しげるの言葉に僧我は驚愕する。

「おいっ…!そんなメチャクチャあるかい!全てってことはねえ…!女や酒、友人…家族…ほかにもいろいろ…」

狼狽する僧我に、赤木しげるはピシャリと言い放つ。

「そんなものは…全部休憩だ…!」 

「おいおいっ…赤木…それは違う!メチャクチャ偏った考えや!それは…!」

「その通り!俺は偏っている…!俺は唯一それを誇りにここまで生きてきた!」

真剣な表情で己が矜持を語る赤木しげる。

「ってわけだ…僧我。分けたら死なせろ…!」

一転、赤木はいつものニヒルな表情に戻った。

“勝負が人生の全て!?偏っている!しかし、だからこそ…ここまでの超人的な能力、直感を赤木は持ちえたのかも…”

僧我は驚きを隠せないものの、なぜか合点がいく。

いつもどおりにタバコをふかす赤木。

一方、僧我は苦悩する。

“くそ…勝てる気がしねぇっ…!しねぇが、わしが倒すしかない…!”

6牌目…僧我は最強の9筒で勝負をかけるが、またもや赤木は同じ牌を出す…。

残るは3牌。
次の7牌目が分けた瞬間、互いの残り牌が全く同じとなるため、この勝負の引き分けが確定する。

それすなわち、赤木しげるの死の刻がすぐそこに迫りくることを意味していた…。


天-天和通りの快男 17(本ストーリー収録巻)

コメント

タイトルとURLをコピーしました