読めば応援したくなる!「ハナバス 苔石花江のバスケ論」レビュー

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『ハナバス』という名の本作品。
簡潔に申せば「面白い!」という言葉に集約されるでしょう。

マガジンポケット連載の当作は、超絶コミュ障女子高生・苔石花江が女子バスケを舞台に、周囲をあっと言わせる活躍をしていきます。
そこに独特のギャグセンスを織り交ぜて、涙あり笑いありの青春群像劇に仕上げます。

読めば応援したくなる!女バス青春グラフティ。
そんな「ハナバス」の世界をちょっと覗いて見ませんか。

ストーリー

千翔中学女子バスケ部が全国大会に出場した原動力。
それは本作の主人公・苔石花江ではなく…双子の妹・咲月(さつき)でした。

ですが、この花江。
実は、妹にも負けないバスケの達人だったのです。
でも、恥ずかしがり屋の性格が災いし、生物観察をライフワークとするスーパーコミュ障女子が爆誕したのでした。

そんな花江が大神高校へと進学し、クラスメイトの小緑つぼみと出会うことにより、女子バスケットボールの世界に足を踏み入れます。
こうして、苔石花江は卓越したバスケ理論と戦術眼を携えて、個性豊かなチームの面々と旋風を巻き起こしていくのでした。




主人公・苔石花江

大好きな妹がスポーツ推薦で遠方の学校に行ってしまったことも手伝って、高校では充実した学園生活を送るぞ!と一念発起する苔石花江。
ところが、1週間経っても友達ができず、早くも学校を辞めたくなっています。

そんな中、運良く小緑つぼみと知り合い、ついに念願の友達ができました。
でも、最初に話しかけられたとき「人間が私に話しかけてきた!?」と驚愕し、イスから転げ落ちたのはここだけの内緒です。

こんな花江ですが、休日は妹を動画撮影したり、毛虫やトカゲの尻尾、カマキリの卵などを写真に納め昆虫観察に勤しんだりしています。
あまりのグロさに、今度は小緑ちゃんがひっくり返ったのは言うまでもありません。

それは、小緑ちゃんが希望するバスケ部見学に付き合ったときのことでした。
初心者の入部を拒否する栗原夏凛に、何とあの花江が物申すのです。

「あの…おっしゃることは凄く分かるんです…はい。ただ部活動というのは入部希望者を拒否していいようなものではないと思うんです。こちらも引けないと言いますか…なので私と1on1で勝負して…勝ったら小緑さんの入部を認めてもらえないでしょうか…」

入部拒否された小緑ちゃんの絶望的な表情が、チキンハートの花江を突き動かしました。
もちろん花江が人生で初めて切った啖呵です。
対峙する栗原夏凛は中学時代、2年生にして地区大会で得点王に輝いた逸材です。
ところが、その栗原を花江は完封してみせました。
恐るべし苔石花江のディフェンス力。
その秘められた能力がついにベールを脱いだ瞬間です。

では、花江が栗原を止められた要因は何だったのでしょうか。
それは趣味の生物ウォッチングで培った観察力でした。
利き手・利き足、ドリブルのタイミングや切り返しのテンポ、目線の癖に得意なフェイントなど、一瞬にして栗原のプレースタイルを丸裸にしたのです。
そして何よりも、幼い頃から妹の咲月と1on1で切磋琢磨した努力の賜物といえるでしょう。

花江は元々バスケ部に入るつもりはなかったのですが、この一件を契機とし、最後は自分の意志で入部する運びとなりました。
ちなみにチーム内での愛称は“こけしちゃん”。

その後も選手交代で「こけしちゃん!行けるよね?」と言われた際も、「買い出しですか?ポカリ?」と相変わらずの小ボケをかまします。
どうやら自分が選手の一人であることを失念していたようでした(汗)

こんな何とも憎めない“こけしちゃん”。
チームに欠かせない秘密兵器として頭角を現していくのでした。




チームメイト

暴れだしたら取り抑えるのに、成人男性8人が必要なキャプテン・大椛環(おおなぎ たまき)。
チームのポイントゲッターにして全国レベルの実力者・藤咲音(ふじ えのん)など、強烈な個性が集う大神高校女子バスケ部。
今回は「平凡は妙手に勝る」を地で行く、苔石花江の恩人たちを紹介します。

1. 小緑つぼみ

彼女は花江の霊長類ヒト科初の友達で、とても心優しい女の子です。
前述したように花江にグロい写真を見せられても、嫌な顔一つせず対応する姿は性格の良さが滲み出ます。
花江が「実家みたいな人だ」と評するのも頷けるでしょう。

そんな小緑ちゃんも花江同様これまでの自分と決別し、高校では新しい自分に生まれ変わろうと思っていました。
その一つがバスケットボールを始めることです。

小緑ちゃんの素晴らしさはいろいろとありますが、ひとつ好きなエピソードを紹介します。
花江が小緑ちゃんの内面を評して、とてもバスケに向いていると語った場面のこと。
花江によると女子バスケは約束事が多く、的確に状況を判断し阿吽の呼吸でチームプレーを行う、いわば仲間のためにするスポーツなのだとか。
つまり、友達を思いやり仲間との和を大切にする小緑ちゃんの本質を見抜いての発言でした。

花江の言葉を聞いた小緑つぼみは言いました。

「それなら…女子バスケが仲間のためにするスポーツなら…バスケって苔石さんにピッタリだね!」

小緑ちゃんは見ていたのです。
花江が栗原に向かって行ったときの姿を…。
小心者の彼女が冷や汗をかき、足を震わせながらも、勇気を振り絞り自分のために戦ってくれたのです。

小緑つぼみは一見すると、柔らかな雰囲気と可愛さに目が行きがちです。
ですが、マガポケのコメント欄にもあるように強い意志を秘め、そして何よりも人の心に明かりを灯せる人物だと感じます。
小緑ちゃんのひと言が、どれほど花江を勇気付けたことでしょう。

小緑つぼみの今後の活躍にも目が離せません。

2. 犬養香(通称ワンコ)

犬養香は藤咲音と同じ2年生で、身長153センチと小柄な体格です。
ちょこんとした丁髷(ちょんまげ)が特徴で、ごくごく普通の女の子。
名前ゆえなのか、見た目からなのか、ワンコと呼ばれてます。
6歳でバスケを始めて以来、ポジションはこれまでずっとポイントガードでした。
理由は決して向いているからではなく、チームで一番背が低かったからです。

新米顧問の勇み足もあり、急遽、昨年度のインターハイ東京予選2位の爽栄女学院と練習試合をすることになりました。
約1年ぶりに対戦する爽栄女学院こそ、ワンコにとって因縁の相手だったのです。
インターハイ予選3回戦、大神高校は爽栄女学院と対戦しました。
チームの穴と見られたワンコを爽女は徹底マークし潰しにかかります。
結局ワンコは打開策を見出せず、チームはそのまま敗退しました。

練習試合が始まると開始早々に藤がスーパープレイを決めるなど、大神高校が主導権を握ります。
しかし第2Qに入り、あっという間に爽女が逆転します。
昨年の予選と同じくワンコがプレスされ、ポイントガードの役目を果たせなくなったからでした。

ところが、花江のプレーがワンコを覚醒させるのです。
実戦で初めてコートに立つ花江は自陣ゴール下、相手チームからボールを奪います。
そのまま速攻に移るのかと思いきや、くるっと向きを変え自陣ゴールにシュートを放ちます!
見事ゴールした瞬間、こけしちゃんは何かをやり遂げたように「ぷはっ」と声ならぬ声を上げました…。

はい!オウンゴールですね!
だって自分のゴールにシュート決めちゃったんですから。
サッカーならいざ知らず、バスケットボールでオウンゴールとは!?
人生で感じたことのないプレッシャーに加え、1on1しかやってこなかったこともあり、無意識に体が動いたのでした。
敵味方関係なく、呆気に取られたことは言うまでもありません。

土下座して必死に謝る花江を慰めたのが、ほかならぬワンコです。

「大丈夫だから。試合っていつもと全然違うよね。だからさ、ドキドキが収まらないときは胸張って深呼吸しよう。そうすれば目線が上がって自然と人の動きやコートの空間が目に入る。味方と声を掛け合えば慌てなくても…」

その瞬間、ワンコは気付きました。

“慌てなくてもいいんだ”

ワンコは爽女の厳しいマークに焦り、早く前にボールを送ろうと慌てていたのです。

忘れてならないのは、ワンコの優しさに花江が救われたことでしょう。
オウンゴールにも「ドンマイ!」と励ますワンコの笑顔に花江の心はどれほど癒されたことか。

ここからワンコの反撃が始まります。
まずは、爽女のプレスディフェンスを花江とのパス&ランで切り裂きます。
最後は鮮やかに自らシュートを決めました。

ワンコはなぜか小学校時代の記憶が甦ります。
女子バスケの実業団が学校に来て、ミニゲームをしてくれたときの思い出です。
ワンコは早川という名の選手に話しかけました。

「あの…リサちゃんは足が速くて。コウキくんは野球やってるからボール投げるのが得意で。アオイちゃんは頭がいいから作戦とか覚えられるかも」

早川選手は返します。

「教えてくれてありがとう!最強チームじゃん!香ちゃんは何が得意?」

「わ…わたしは…何も得意じゃないです」

そんなワンコに早川選手は優しく語りかけました。

「じゃあ…みんなの得意を知ってる香ちゃんは…きっとポイントガードが得意だね」

それからワンコは知りました。
ポイントガードがバスケのポジションであることを。
早川選手がポイントガードであることを。
そして、彼女の得意技がビハインドザバックであることを。
それをきっかけにミニバスに通い始めたのです。

爽女を倒すため、後半に入ってもワンコは走り続けました。
司令塔のワンコはパスコースを探します。
でも、爽女のディフェンスには全く隙がありません。
ディフェンダーがワンコに襲いかかったとき、ワンコは完全に思い出しました。

“私…ポイントガードがやりたくてバスケ始めたんだ”

その刹那、あの日見た早川選手と同じ「ビハインドザバック」で敵を抜き去ります。
そして、ゴールへと疾走する同学年の藤へパスを繋ぎます。
エース・藤から放たれたシュートは美しい放物線を描き、完璧なまでにゴールネットを揺らしました。

このゴールにふたりの信頼関係が見て取れます。
どうしても得点が欲しい場面、ワンコは藤を探します。
一方、藤もワンコを信じフリーになって走ります。
ふたりの心が通い合い生まれたゴールといえるでしょう。
そして、早川選手ゆずりの「ビハインドザバック」を決めるシーンは胸熱です!

私はワンコを見て思います。
バスケットボールは決して身長だけの競技ではないのだと。
努力の先には報われる世界線があることを。




まとめ

スーパーコミュ障陰キャ女子・苔石花江が奏でる「ハナバス」を紹介してきました。
不器用でもひたむきな花江に対し、いつの間にか“俺たちのこけし”と感情移入しているから不思議です。

この作品が素晴らしいのは、苔石花江だけでなく次々と魅力的な人物が登場することです。
それも藤をはじめとするスーパースターだけでなく、一見すると平凡な少女たちの内面も掘り下げてくれるため、気が付くと本作の世界観に没入していました。
そして、女子バスケがいかに仲間のためにするスポーツかということが、初心者の私にも伝わってきます。

個性豊かな面々が躍動する「ハナバス 苔石花江のバスケ論」。
少しでも多くの人に読んで欲しい良作です。


ハナバス 苔石花江のバスケ論(1) (マガジンポケットコミックス)

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