「闇に降り立った天才」赤木しげるの名言・名場面㉔ 
鷲巣編part9『深遠なる闇』

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5回戦が終了し、アカギは鷲巣から5億7500万を奪う代わりに、血液を2000㏄失った(事前輸血で500㏄補充済み)。

一方の鷲巣は無尽蔵に思えた6億(現在の60億)もの大金が、2750万まで溶けてしまう。

泣いても笑っても勝負が決着する6回戦が幕を開けた…。

6回戦開始

最終決戦はアカギの起家で始まった。
仰木や安岡は5回戦の圧勝もあり大歓迎といった風情だが、ひとりアカギだけは全く異なる認識であった。

そもそもアカギが真に欲していたのは起家てはなく、ラス親だったのである。
なぜならば、最終戦は鷲巣を追いかける展開が濃厚と読んでいたからだ。
この一事をもってしても、アカギの衰運を物語る。

東1局と2局、鷲巣の満貫手が成就しかかるが、アカギはかろうじてかわす。
そして、鷲巣が親番を迎えた東3局もアカギ渾身のブラフが功を奏し、鷲巣はあがりを逃してしまう。
だが、何とかテンパイし、親番を維持した鷲巣はようやく気が付いた。
自分はツイているのだと。




深遠なる闇

東3局一本場、ついに鷲巣巌という王の下、好牌という名の臣下が馳せ参じる。
配牌で字牌の鉱脈を掘り当て、対子・暗刻が押し寄せた。
しかも、部下が鷲巣の対子を持っているので、いつでも鳴かせることができるのだ。

鷲巣巌は決意する。
生きとし生けるもの全てを焼き尽くす太陽の如き熱射をもって、“氷の男”赤木しげるを溶かすのだと。

このとき、鷲巣はこれ以上ないほどにエネルギーが充満し、神の化身と見まごうばかりであった。
一度は、親倍満をテンパイするも格下の安岡を翻弄し、致命的なミスを引き出して字一色へ移行する。
しかも、部下の差し込みをあがらずにポンをして、字一色・小四喜のダブル役満にまで仕上げてしまう。
このビッグチャンスを部下の振込による、ただの親役満では目の前の悪魔を殺せないと踏んだのだ。
ここで自ら引きあがり、赤木しげるの息の根を止めるのだと。

鷲巣の待ちの北単騎は部下の手牌にあり、いつでも差し込むことが可能となっている。
アカギの混一模様の仕掛けに警戒する配下の者たちは、出あがりするよう進言する。
何しろ親のダブル役満96000点なのである。
そして、部下は運命の“北”を切った…。

しかし、完全にゾーンに突入した鷲巣は、あがる気など毛ほどもない。
次の己のツモ番で、絶対にツモリ上げる確信があったのだ。
赤木しげるを跡形もなく、灼熱の業火で焼き払うのだと…。

だが、赤木しげるは「生死分かつ北切り」に全く関心を寄せず、恐ろしいまでの静寂に包まれていた。
次の瞬間、赤木しげるから冷気、いや霊気が鷲巣に向かって押し寄せる。
それは“血も骨も魂までも凍らせる…どこまでも続く漆黒の闇”だった。
闇に浸食された鷲巣は恐怖に呑まれ、思わず手牌を倒してしまう。
数秒前まで全くあがる気など無かったにもかかわらず…。

無言の恫喝に屈した鷲巣巌。
天空に君臨する灼熱の太陽が、赤木しげるという“深遠なる闇”に覆い尽くされた…。




“幻想”の国士無双

鷲巣はアカギという悪魔を仕留め損ねたが、現実問題として約10万点もの差を付けた。
ここからの逆転など、絵空事としか思えない。

それに加え6回戦の開始前、もしアカギが順位で下回ったら金ではなく、血をもって支払うという約定がなされていた。
そんな必要などないにもかかわらず、鷲巣の難癖をサラリと受け入れる赤木しげる。
生来の博徒の血が騒いだとしか思えない。

東3局2本場、アカギの手牌は目を覆いたくなるようなクズ手である。
一九字牌が7種8牌で、バラバラの形はとてもあがり目など期待できない。
一方、鷲巣も一見すると酷い手だが、こちらは一九字牌が羅列しており11種11牌となっている。
明らかに両者の勢いの差は明白だった。
言うならば、アカギの手は他にやりようがない“敗者の国士”ならば、鷲巣のそれは曙光に彩られた“王道の国士”であった。

それを物語るように、鷲巣はツモも順調で僅か5巡目にして国士無双のテンパイを果たす。
対照的にアカギは相変わらず、一手進んだだけの8種9牌のクズ手のままである。
誰もが勝負あり!と思った刹那のことだった…。

なんと!アカギは發を引くと、やおらリーチを宣言するではないか!
後ろで観戦する仰木は一瞬、意味が分からない。
何しろアカギの手牌はまだまだテンパイに程遠く、ハッタリにすらならないはずだからである。
ところが、よく見直すと…ガラス牌は全て一九字牌となっており、残りの黒牌も理想的な形で一九字牌が入っているならば、対戦相手にはテンパイに見えるではないか!
この窮地で、“仮想”・“架空”・“幻想の国士”を立ち上がらせる赤木しげる。
まさに身を切るような渾身のブラフ、“掟破りの逆国士”である。

そのとき、赤木しげるは心の中でこう言った。

「フフ…どうだ?鷲巣…面白かろう。こんな国士、こんな刃も…!フフ…張り子のトラだが、まあ仕方ない」

どこまでも、不敵な赤木しげる。

「あ、あるか…そんなこと!ありえない…!100%ハッタリだ!」

鷲巣はあがり牌の白を引かんと、指先に力を込めた。
だが、引いてきたのは西だった。
アカギの手はガラス牌に南が2枚見えるので、13面待ちは有り得ない。
となると、黒牌で隠れた牌が本命となる。
まさに、西はその本命牌の一つだったのだ。

人は九分九厘ハッタリだと思っても、この土壇場で“万が一”がよぎれば、もうその妄想は止まらない。
指に絡み付く“西”という刺客が鷲巣の思考を鈍らせる。

当初は叩き切ろうとした鷲巣だが、アカギの捨て牌にある第2打に目が留まる。
黒牌の八萬が切られていたのである。
一刻の猶予もならないこの状況下、果たして喉から手が出るほど欲しいはずの黒牌を惜しげもなく捨てることなど出来るのだろうか…。
もしや…ハッタリでなく、本当にテンパイしてるのかも…。

しかも、もしノーテンリーチだとしたら流局した途端、アカギはノーテン罰符を鷲巣に払うことになり、直取りボーナスの約定で血を抜かれることになる。
親の鷲巣に払う4000点、つまり血液換算分で400㏄を抜かれれば、ほぼアカギは絶命となってしまうのだ。
考えれば考えるほど、ここでのノーテンリーチなど有り得ない。

もちろん、これはアカギが仕込んでおいた撒き餌である。
たとえスピードを犠牲にしても、後々必ずや鷲巣を混迷の森に引きずり込む迷いの種になるのだと。

部下たちの必死の諫言も手伝って、ついに鷲巣巌は撤退を選択する。
その2巡後ツモったのは…皮肉にもあがり牌の白だった…。

有利が人を誤らせる。
有利が人をぬかるみに誘い込む。
限度を超えた有利を手に入れたとき、人は安全という保身を捨てられない。

結局10巡目、鷲巣の部下が安手をツモり、運命の東3局2本場は終わりを告げる。

人が抗うことのできない心理を操ることにより、赤木しげるは未曽有の危機を脱したのであった…。


アカギ-闇に降り立った天才 19(本作品収録巻)

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