ドキュメント72時間③「樹木葬 桜の下のあなたへ」レビュー

ノンフィクション




本作品は、ドキュメント72時間歴代ベスト10に選出された名作である。
東京都町田市の霊園を舞台にし、2019年に放送された。

遺族が故人を偲ぶという同じテイストの「恐山 死者たちの場所」は、未だ痛みが癒えない人々が数多く登場したこともあり、哀しみが画面を通して伝わってきた。

だが、本作品はそれに比べると、少し明るい雰囲気が漂っている。
青空の下、桜咲く母なる大地で眠っているシチュエーションもあるのだろう。

樹木葬

「おばあちゃんが桜の木の下に埋められているので、そこにお花をあげようと思って」

小学生ぐらいの男の子が両手に抱えた花を、大好きだった祖母の眠る桜の下に手向けていた。

樹木葬とは墓石の代わりに、木々を墓標にしたものだ。
大地の下で埋葬された人々と繋がっているため、独りぼっちでないことが心強くもある。
そして、何よりも自然に還りたいという故人の想いを叶えている。

永代供養で家族の負担も少ない樹木葬は、全国的に広がりをみせている。
番組を見ていて気付いたのは、お墓も様々なタイプがあるということだ。
そして、その数だけ人々の思いが込められていた。

お墓参りに訪れる人々

その場所には、いろいろな人が訪れる。
また、参拝に来る形態も様々だ。
家族と、友人と、そして独りでと。

1. お昼を楽しむ家族

父の墓参りに訪れ、桜の下で昼ごはんを食べる家族。
どうやら、ハンバーガーと山盛りポテトに舌鼓を打っている。

「石のお墓のある所で、ごはんは食べたくないですけどね。ここだったら、ちょっと暖かくなったので…」

そこは椅子とテーブルが設置されており、3人の女性が腰掛けていた。

私は驚いた。
墓地でランチを取る発想が、全く無かったからである。
しかし、そこは樹木葬。
女性が言っていたように、墓石の代わりに木や植物に囲まれており、青空の下ちょっとしたピクニック気分で食べられる。
その証拠に、女性の弾けるような笑顔が印象的だった。

墓参りというと、どうしてもお花や線香をあげ、手を合わせても数分で終わってしまう。
だが、こうやって墓前で食事をとりながら故人の思い出話に花を咲かせれば、ゆっくりとした時間を過ごせるのだ。
桜の下で眠る父親も家族と過ごすひと時に、とても喜んでいるに違いない。

2. 故人に感謝する遺族

66歳の男性は6年前、妻を亡くした。
生前、妻から「海に散骨して欲しい」と言われていたが、逡巡し樹木葬を選んだという。

「散骨してしまうと何も残らないかなと思って。1%ぐらい考えたけど無理でした」

40年前、職を求めて青森から上京して来たという。
4人の子宝に恵まれる中、男性は家族を養うため様々な仕事に従事する。
妻は金銭的に苦しくても「二人で頑張れば大丈夫」と言って励ましてくれた。
妻の言葉にとても救われたと感謝する男性。

「来ればタバコを2本ぐらい吸って、線香がなくなる寸前で帰るようにしている」

そう語る男性は、毎週この場所へ妻に会いに来た。

看護師をしている63歳の女性には、生涯独身を貫いた兄がいた。
だが、1年前に他界する。
あまりにも辛く、ここにはなかなか来れなかった。

女性は樹木葬にした理由を語った。

「亡くなる3ヵ月前、兄と一緒に見学に来たんですよ。すると、兄が“俺、死んだらここがいい”って凄い気に入ってくれたんです」

2歳上の兄には、子どもの頃から助けられてきた。
まさに、親代わりの存在だったという。

「小さい頃、父が亡くなりました。母は働いてはいたんですけど、自由奔放な人で、子どもは二の次でした。お腹が空いたと泣く私に、兄は親戚から食事をもらって来てくれたんです。
結婚してからもトラブルを解決してくれるなど、本当に世話になりっぱなしでした」

涙ぐむ女性は、胸の内を吐露した。

「いなくなってしまうと、こんなにキツいもんだと思わなくて…」

しかし、季節は“命輝く”春を迎えていた。

「これから1番いい時期ですね。桜が咲いて、いろんなお花が咲いて、芝生も青々として」

そう語る女性は、この場所を気に入った兄を思い浮かべていたのだろう。
きっと、その姿は花々に囲まれ、喜んでいたに違いない。




3. 命をつなぐ

その女性は言う。

「父が遺してくれたクリスマスローズが咲いたので、ちょっと持ってきた。形見じゃないんだけど、引き継いで庭で育てているのは何となく繋がっている感じがして。会話の中でも、おじいちゃんのまた咲いたねとか」

きっと父は、かつて自らが大切に育てていたクリスマスローズを見ることができ、相好を崩していることだろう。

命をつなぐ樹木や草花。
ここにもまた、樹木葬の精神が息づいている。

夕暮れ時、ひとりの男性がお参りをしていた。
来月子どもが生まれるので、10年前亡くなった父に報告に来たのだという。

父の思い出を語る男性は微笑みを浮かべている。
父親は優しかったそうで、いろいろと影響を受けた。
父の仕事に憧れ、気が付けば商品のプロモーションの職に就いていた。

男性は行き詰まったり、報告したいことがあったりするとき、ひとり父の墓前を訪れる。

「桜を見ている時、父と話しているような感覚になれます。木って生きてるじゃないですか。そういう意味でもなんかこう、まだ生きているような感覚があります」

自分も間もなく、父親になることについて語る男性。

「父のような良い父親になれるかどうか若干不安はありつつも、それ以上に期待も大きいなぁと」

桜の下で1時間父と語らい、帰路についた時にはすっかり日が沈んでいた。

男性の口調から、本当に父を慕っていたことがよく分かる。
父を見守る桜の木は、彼にとってかけがえのないものだった。

4. 生きているうちに死を考える

雨の中、友人と連れ立って来た73歳の女性。
誰のお参りか尋ねると、自分のだという。
買って間もないお墓の見学に来たのだ。

「私は(お墓に)名前を入れないつもりでいる。来る家族がいないから。だから別に名前なくても大丈夫。簡単がいいですよ」

ずっと独身で生きてきた女性が選んだもの、それが樹木葬だった。

「誰もいなくても、周りが綺麗でしょ。いつもお花がある」

桜の下の墓地で、花の管理をしていた花屋さんは言う。

「生きている間に死ぬことを考えるのは、いいなと思います」

女性と花屋さんの話を聞き、私は思う。
永代供養をしてくれる樹木葬は、身寄りのない者にこそ最適なのではないかと。

様々な背景を持つ人々を包み込む樹木葬。
その懐の深さを実感させられる。

まとめ

他にも「重いから石は置かないで」と言う妻の願いを叶えた81歳の男性や、墓前で旦那の好きだったビールで乾杯する保険会社勤務の女性など、印象に残る方々も出演した。

以前、私はある言葉を目にする。

「どう死ぬかとは、どう生きるかである」

当時の私は哲学的な文言を、今ひとつ理解できずにいた。
だが、年を重ねるごとに、この言葉の意味が少しずつ分かるようになる。

「樹木葬」。
この番組を見て思うのは、不思議とそこに眠る方々の生前の様子が目に浮かんでくるのである。
それは、故人の生き方が樹木葬というスタイルに重なるからだろうか。

限りある命を全うし、その御魂が自然に還っていく。
自然の摂理に沿った埋葬法、それが樹木葬なのかもしれない。

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