リンクにかける熱き想い「メダリスト」レビュー

マンガ




「メダリスト」は、11歳の少女・結束(ゆいつか)いのりがフィギュアスケーターとして成長していく物語です。

作者はつるまいかだ氏で、「月刊アフタヌーン」で2020年から連載しています。
「全国書店社員おすすめ2021年コミック」で15位に入ると、「次にくるマンガ大賞2022コミックス部門」では見事1位になりました。

フィギュアスケートが好きな人はもちろん、競技に関心がない方も好きになる。
そんな秀作「メダリスト」を紹介していきます。

ストーリー

結束いのりは11歳の小学5年生。
幼き日、氷上を舞う姉の姿を観て以来、フィギュアスケートへ憧憬を抱くようになる。

ある日、いつものリンクで、全日本選手権にも出場した元アイスダンス選手・明浦路司(あけうらじ つかさ)と運命の出会いを果たす。
いのりの天賦の才を見抜いた司は、娘がフィギュアをすることに難色を示す母親を説得し、専任コーチとして指導を始めた。

内気で勉強もできずパッとしない結束いのりだが、フィギュアにかける熱い想いと抜群のセンスを武器に、リンクの上を羽ばたいていく。


メダリスト(1) (アフタヌーンコミックス)

感想

私はオリンピックや世界選手権、グランプリシリーズなどのシニアの試合は観ますが、ジュニアやノービス(13歳未満のカテゴリー)の世界はほとんど知りません。

ですが、本作を手に取ると、子どもたちのリンクに懸ける情熱や揺れる想いを丁寧に描く世界観に、いつの間にか引き込まれていました。
また、シニア選手では当たり前にこなすジャンプやスピンの難しさを、フィギュア初心者を通して描くことにより、改めて実感させられます。
そのことにより、選手たちがどれほどの研鑽を積んでリンクに立っているかが理解できるのです。

これほどまでに、フィギュアスケートやノービスの世界を丹念に描けるものかと感心します。
それもそのはず、作者・つるまいかだ氏は多忙なスケジュールを調整し、月に1度は取材に出かけているのです。
だからこそ、現場でしか感じることのできない空気を肌で吸収し、フィギュアスケーターの汗と努力、そして心の機微を表現できるのでしょう。

また、本作はフィギュアスケートを知らない人にも読んでもらうため、ルールや演目の種類も分かりやすく解説しています。
事実、俄かファンの私はバッジテストのことを知りませんでした。
ちなみに、バッジテストとは年齢以外にも、所持するバッジの等級によって出場できる試合のカテゴリを設ける制度です。

このように、ジャンプやスピンのみならず、フィギュアスケートの文化や基本的な制度を知ることにより、一層競技への関心が増すのではないでしょうか。

日本は有数のスケート大国であり、羽生結弦や宇野昌磨、坂本香織などのオリンピックメダリストが活躍しています。
是非この機会に、“美しき氷上の世界”を覗いて見てはいかがでしょう。




師弟の絆

明浦路司は現役時代、とても苦労したフィギュアスケーターでした。
少年時代、クラブに入れずスケート教室に籍を置き、バイトで費用を稼ぎながら独学で技を磨きました。
ですが、5歳から始めないと大成できないといわれるフィギュアスケートで、コーチもいない司は伸び悩みます。
そして、20歳の時にシングルスケーターへの道を諦め、アイスダンスに転向します。
そうして、やっと掴んだ全日本選手権出場だったのです。

一方、いのりは周囲から“できない子”のレッテルを貼られ、母親からも出来の良い姉と比較されるなど、辛い日々を過ごしていました。
本当は姉のようにフィギュアスケートを習いたかったのですが、どうしても母親に言い出せず時間ばかりが過ぎていきました。
そんな中、司との出会いをきっかけに、勇気を出して母親に気持ちを伝えます。

司は面談に訪れた、いのりと母にリンクで滑るよう提案します。
氷の上に降りた瞬間、別人のように輝くいのりは独学で学んだとは思えぬ才能の煌めきを見せつけます。
それでも、母親は娘がスケートをすることを許しません。

すると、今まで我慢し続け一度も自己主張して来なかった、いのりは思いの丈をぶつけます。

「わたし…スケート絶対やりたかったの…!お姉ちゃんが辞めちゃうぐらい、スケートは大変なのも知っている。できない自分はいつもみんなを困らせてるから、わがまま言っちゃいけないって…ずっと思ってた。でも、ずっとやりたかったの…」

そして、流れる涙もそのままに、いのりは訴えます。

「わたしはみんなと同じようにできないけど、わたしにも誰かに負けないくらい好きなことがあるって…上手にできることがあるって…わたしは恥ずかしくないって思いたいの!」

いのりの魂の叫びを聞き、司も母親を懸命に説得します。
そして、「俺がこの子のコーチとしてスケートを教えます!全日本選手権に出場できる選手にしてみせます!」とほとばしる熱意を持って、母親の承諾を取り付けるのでした。

司は、いのりの姿にかつての自分を重ねていました。

「できなかった自分にしか救えない気持ちがある。できなかった自分にしか見つけられない才能がある。これこそ、俺がスケーターとしてできることじゃないか」

実は司もまた自信を持てず、知人にコーチとして誘われていたものの、断るつもりでした。
ところが、いのりとの出会いにより、情熱に火が付きます。
熱血漢の司ですが、その心根は優しく、いのりの心にいつも寄り添います。
そして、そんな司に、いのりも心を通わせ固い絆で結ばれていきました。

艱難辛苦の時を乗り越え、邂逅を果たした明浦路司と結束いのり。
どこか似た者同士のふたりは、誰よりも息ピッタリな師弟です。

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