ザ・昭和の決定版!手に汗握るアドベンチャー「川口浩探検隊」

ノンフィクション




水曜夜7時半。
水曜スペシャル「川口浩探検隊」というテロップが躍り、「トゥルル~トゥルル~トゥルル~」とテーマソングが鳴り響く。

すると、老いも若きも魅入られたように、テレビの前に座り出す。
あの瞬間の胸の高鳴りを、今でも思い出す御仁もいるだろう。

そして、エンディングを飾る、雄大な自然と調和したロッキーのテーマ曲。
そのメロディを聞きながら「川口浩よ、またいつか…」と、我々はそっと心の中で呟いた。

生まれながらの冒険野郎 川口浩

あるときはジャングルの奥深く、またあるときは暗闇の支配する洞窟へと突き進み、地球の神秘に挑み続けるチャレンジャー。
胡散臭いパーマネントをあてつつも、世界を股にかける男の中の男、それが川口浩なのである。

しかし、いつも隊列のど真ん中にポジショニングを取り、隊員たちに四方八方を城壁のごとくガードさせ、己の安全確保には余念がない。
命知らずの冒険野郎というプロパガンダを垂れ流し肩で風を切りつつも、リスクマネジメントの帝王ぶりも発動する、まさに七つの顔を持つヒロシ・カワグチ。

我が家の父はジョーク好きなくせに、ドリフをはじめとするバラエティ番組を嫌っていた。
機嫌が悪い時など、いきなり大声で「くだらねぇ!今すぐ消せ!」と強権を発動する。
ある日、父親がいないことをいいことに、堂々と居間で川口浩の雄姿を鑑賞していた。
すると、背後に剣呑な気配がするではないか。
いつの間にか、我が家のダディが帰宅していたのだ。
万事休すである。
ところが、父は「川口浩じゃないか。今、こんなことをやっているのか~」と懐かしそうに目を細めているではないか!
うるさ型のメタボリック中年をも呑み込んでいく、川口浩の威容。
それは、探検隊が一路目指す、大自然の神秘にも劣らぬスケール感ではないか!

そして、番組内での川口の活躍も見逃せない。
神経を極限まで研ぎ澄ませ、いち早く異変を察知すると、スタッフに注意を促していく。

「おいっ!何だアレは!?」
「でっかい卵だな~」

冴えわたる川口節。
そして、そのときの川口浩の顔といったら…。
おそらく、キャプテン川口浩以外はとっくに気付いているのだろうが、そこは番組の演出上、隊長が気付くまで辛抱強く待たなければならない。

あるとき、川口浩の圧巻のパフォーマンスが、どこかで見た覚えがあることに気が付く。
それは以前、林間学校のための講習会で見たビデオだった。
たしか、オリエンテーリングの諸注意だったと思うのだが、山道を進んでゆく中年の男が太陽を眩しそうに見つめながら、手の甲でわざとらしく額の汗を拭っているシーンであった。
その時のクサ過ぎる小芝居と表情が、我々一同を爆笑の渦に巻き込んでいく。
あの男と、我らが川口浩隊長の所作や作り込んだ顔が、そっくりだったのである。

いや、もしかすると…あのビデオの出演者自体が、川口浩だったのかもしれない。(そんなこと、あるかい!)

名場面の宝庫

この番組は、数えきれないほどの名場面の宝庫である。
双頭の大蛇ゴーグや猿人バーゴンといった番組の歴史を彩る大立者はもちろん、何気なく登場する脇役や地味なシーンでも唸らされる。
今思い出しても笑いを堪え切れない、もとい緊張のあまり震えが止まらない。

ちなみに断っておくと、水曜スペシャル「川口浩探検隊」で登場する数多の名場面はあくまでも演出であり、決してヤラ〇ではない。断じて〇ラセではない!(大事なところなのでリフレイン)
ただ、言えることは、令和の現在ならばクレームの嵐で即打ち切りであろう。
そう思うと、昭和という時代が持つ懐の深さに感嘆する。

一例をあげると、探検隊の行く手を阻むかのように、道中で遭遇する蛇の群れ。
一見すると大ピンチであるが、冷静に観察すると、慎重かつ入念な検査にクリアし、安全性についてお墨付きをもらったJIS規格のようなスネークたちなのだ。
だが、いくら動きが緩慢で、映画の告知に出ながら「別に」を連発する沢口エリカばりに気だるそうに見えても、あの群れの中を横切っていく川口浩はあっぱれである。
今ならば、日曜朝に張本勲が黙ってはいまい。

さながら、「そこに山があるから」で有名なジョージ・マロリーと比肩しうる“ネイティブクライマー”ぶりである。
あるいは、“竜馬がゆく”ならぬ“浩がゆく”といったところであろうか。

まだ子どもだった私は、Mr.川口に男を見た。

田中信夫という魔法使い

当番組のナレーター役を務める田中信夫。
ときに抑揚を抑えてシリアスに、そして、見せ場が来ると大迫力のナレーションで番組を盛り上げる。
その独特の語り口は、視聴者の心を鷲掴みにするに十分であった。
私見だが、番組への貢献度では隊長・川口浩を凌ぐのではないか。
田中信夫という稀代のほら吹き、もとい語りべが居てこその「川口浩探検隊」なのである。

そんな番組のMVPともいえる田中信夫の特徴は、JAROに訴えられたら敗訴間違いなしの、誇大広告ならぬ誇大ナレーションにある。
よくもまあ…と感心してしまう強引なまでの表現力。
この男ならば100グラム78円の豚肉を、九州の雄・かごしま黒豚だと言いくるめ、某グルメ評論家にウン十倍の価格で売りつけることも可能なのではないか。
その剛腕ぶりは、“南アフリカの剛腕”マイク・ベルナルドを彷彿とさせる。

そして、CM直前になると「次の瞬間、我々は信じられない光景を目撃するのだった!!」と様式美のように、田中信夫渾身のナレーションが炸裂した。
CMが明け、「一体どんなアクシデントが起こったんだ!?」とドキドキしながらテレビの前で一日千秋の思いを胸に待っていると、隊員が転んでカスリ傷を負っただけ…なんてことは日常茶飯事である。
にもかかわらず、御大・川口が待ってましたと言わんばかりに「おい!大丈夫か!みんな、足元に気を付けろよ~」と小躍りしながら、リーダー口調で隊員を引き締める。

そのたびに、我が家に「チッ…!」という乾いた舌打ちが響き渡る。
ちなみに、田中信夫の語り口に引きこまれるあまり、喉がカラカラになってしまうため、舌打ちの音も乾くのである。

もはや、田中信夫の語りはナレーションの域を越え、視聴者を異世界へと導くイリュージョンと呼ぶべきだろう。
まさに、ハリー・ポッターもアルバス・ダンブルドアも顔負けの妖術使いであった。

まとめ

「川口浩探検隊」について紹介してきたが、如何だっただろうか。

当時、番組にくぎ付けになって見ていたアラフィフ以上の方々と、平成生まれの若人では感想が異なるのは仕方ない。
だが、あの時代に生きた人々は、誰もが川口浩の胡散臭さ…もとい冒険魂に惹きつけられて止まなかったはずだ。
かくいう私も懐かしさのあまり、ついつい力が入ってしまった。

昭和史に燦然と輝く「川口浩探検隊」。
嘉門達夫の「ゆけ!ゆけ!川口浩!!」も笑って許した川口浩隊長ならば、ここでの私の狼藉も天国から一笑に付して、どうかご容赦願いたい。


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