「葬送のフリーレン」 ~大切な人の思いとともに~

マンガ・アニメ




「葬送のフリーレン」。
本作品は感動ポルノのような押しつけ感がなく、大袈裟な表現も多用しない。
淡々したストーリー展開の中で、人の心をあたたかい気持ちにさせる世界観。
そこに、クスリとさせる独特のユーモアを交える描写が心地よい。
喩えるならば、ドーパミンではなくセロトニン漂う作風だ。

「今は亡き人々に祈りを 今を生きる人々に親愛を」

大切な人々との思い出を紡ぐ、大魔法使いフリーレンの旅と追憶の物語。
それが「葬送のフリーレン」といえるだろう。

この作品を読むと思わずにいられない。
大切な人と過ごした何気ない日常こそが、真の幸福なのだと。

ストーリー

勇者ヒンメル、僧侶ハイター、戦士アイゼンと共に、魔王を討伐した魔法使いフリーレン。
冒険が終わりを告げたとき、まるで4人の偉業を賛えるよう50世紀に一度の流星群“半世紀(エーラ)流星が”降り注ぐ。
彼らは約束する。
50年後、再び4人で流星群を見るのだと…。

そして50年後、彼らは約束を果たすため再会する。
エルフのフリーレンとドワーフのアイゼンの見た目は変わらないが、人間のヒンメルとハイターは歳月の重みを感じさせる。
ヒンメルの頭には髪の毛一本残っていなかった。

流星を見つめるヒンメルは、しみじみと語り出す。

「いろいろな所を旅したね。その美しい思い出の中にはいつも仲間達がいた。僕はね全員が揃うこの日を待ち望んでいたんだ。ありがとうフリーレン。君のおかけで最後にとても楽しい冒険ができた」

それから間もなくして、ヒンメルは息を引き取った。
その姿にフリーレンは涙が溢れ落ちる。

「私はこの人のこと何も知らない。人間の寿命は短いことを知っていたはずなのに…なぜもっと…知ろうと思わなかったのだろう」




登場人物

1. 主人公 フリーレン

千年を超える悠久のときを生きるエルフの大魔法使いフリーレン。
性格はいたってマイペースでズボラな面も散見され、感情の起伏が乏しく共感性も高いとはいえない。
さしずめ、魔法オタクといった風情である。

そんな自身の特性を、勇者ヒンメルの死に直面し初めて後悔した。
そのことを契機とし、かつて仲間達と共に歩んだ旅路の記憶をたどりながら、新しい仲間と“人”を知るための旅に出る。
ときに学び、ときに悩み、またあるときは人の心に寄り添いながら。

そして、今やフリーレンは若者たちを導く人生の師に成長した…はず!?
ちなみに、宝箱に扮したミミックに食われかかるという、特技を持っている。

2. 旅のお伴その1 魔法使いフェルン

彼女は僧侶ハイターが助けた戦災孤児で、後にフリーレンの弟子になった。
物語に登場した当初は可愛らしい少女だったが、今や難しい年頃を迎え、度々フリーレンやシュタルクを怯えさせている。

しかし、ダメダメ人間揃いのフリーレン一行にあって、唯一のしっかり者である。
その証拠に、フリーレンの食事や身の回りの世話を焼いている。
要するに、10代にして千年以上生きる師匠の母親代わりをこなすのだ。

そんなフェルンは、今は亡き恩人ハイターに心から感謝している。
そして、今やフリーレンも一目置く魔法使いに成長した。

3. 旅のお伴その2 シュタルク

シュタルクは勇者パーティの戦士アイゼンをも畏怖させる才能の持ち主だ。
だが、生来の臆病な性格も手伝って、なかなか才能が開花しなかった。

しかし、フリーレン達と出会い、真の戦士として覚醒する。
もちろん、師アイゼンの教えがあってこそなのは言うまでもない。

フェルンとは互いに憎からずといった様子だが、彼女の機嫌を損ねることを最も恐れている。
理由は、ただ単に怒らせると怖いからである。

4. おじいちゃん感強め デンケン

彼はメインキャストとはいえないが、個人的にお気に入りなので紹介する。

デンケンは宮廷魔法使いとして、富も権力も掌中に収めた老練な魔法使い。
自身が回想するように、若き日は野心に燃え権謀術数も厭わなかったことだろう。
しかし、様々な経験を積み重ね、たどり着いた現在の姿には決して不快な印象は残らない。
むしろ人の命を大切にし、無駄な争いは極力避けるメンタリティは好感さえ持てる。

そんな全ての富貴栄達を極めた男が一級魔法使いの資格を目指した理由が、故郷に眠る愛妻の墓参りのためだというのだから、なかなか粋な御老体ではないか。
そして、かけがえのない思い出が宿る彼の地を救うため、命を懸けるデンケンに思わず心震わせた。

「葬送のフリーレン」が誇る名バイプレーヤー。
人生の終着点では、彼のような境地に到達したいものである。




勇者達との物語

勇者ヒンメルは、フリーレンの回想に最も登場する人物である。
イケメンを鼻にかけるナルシストだが、誰よりも優しい心を持っていた。
魔王討伐という重責を担いながら、ときに市井の人々の援助を優先する。

そうした姿勢は、ときにアイゼン達から疑問を投げかけられたこともあった。
だが、彼の美しい魂に導かれるように、パーティの仲間達のマインドにも影響を与えていく。
それはフリーレンも例外ではない。
いや、むしろ「こんなときヒンメルなら…」といった具合に行動の羅針盤になっている。

魔王を倒した勇者ヒンメル。
だがそれ以上に、私は“ひとりの人間”としてヒンメルを尊敬する。

そして、最も好きなのが僧侶ハイターのエピソードである。
まだ幼いフェルンは戦禍により両親を失った。
厳しい現実に絶望し、身投げしようとする少女を救ったのがハイターだ。

老い先短いハイターはフェルンの行く末だけが心残りだった。
そこで一計を案じ、フリーレンに嘘を付く。
すっかり一杯食わされ、ハイターの思惑通りフェルンを弟子にするフリーレンだが、悪い気はしていない。
それはそうだろう。
嘘というには…あまりにも真心の籠もった優しい嘘だから…。
普段は大酒飲みの生臭坊主だが、脈々とヒンメルの遺志が受け継がれていたのである。

ハイターは言う。

「私がこのまま死んだら、彼から学んだ勇気や意志や友情、そして大切な思い出までこの世から無くなってしまう…」

きっと我が子のように可愛がったフェルンにも、ハイターの想いは伝わったに違いない。
そして、フリーレンの弟子となったフェルンは師匠と共に長い旅路につくのだった。

最後に登場願うのが戦士アイゼンだ。
弟子シュタルクの誕生日には、巨大なハンバーグを振る舞う優しい一面も持つ。
本当は誕生日プレゼント代わりに作っていたのだが、不器用なアイゼンは言葉にすることができない。

月日は流れ、半世紀(エーラ)流星の下での再会から30年。
アイゼンの自宅に、フリーレンは旅の途中で立ち寄った。
フリーレンが手伝って欲しいことがあるか尋ねると、アイゼンは大魔法使いフランメの手記を探したいと言う。
フェルンと一緒に探した後、ようやくそれは見つかった。

だが、フリーレンは訝しがる。
なぜ、戦士のアイゼンが魔法使いの手記が欲しいのかと。
すると、老ドワーフは思いもかけぬことを宣わる。

「お前とヒンメルが可哀想だと思ったんだ」

理由がわからぬフリーレンに、アイゼンは言葉を継ぐ。

「30年前のあの日、お前はヒンメルを知っておけばと口にした。あの言葉は直接ヒンメルに伝えてやるべきものだ。大魔法使いフランメの手記には死者と対話したという記録が残っている」

実は、アイゼンは生前のハイターと相談していたのである。
きっと後悔しているフリーレンのために、手助けしてやれることを。

フランメの手記を見た瞬間、あてのない旅の目的地が決まった。
大陸の北の果て“魂の眠る地”オレオールだ。

こうして、フリーレンは亡き友ヒンメルに想いを伝えるため旅立った。




まとめ

フリーレンが勇者パーティで過ごした時間、それは10年である。
人間にとっては決して短くないが、長命のエルフ族にとつては寸毫のときである。
その短き時間がフリーレンの生き方を変えた。

人は不死、永遠の命を願う生き物である。
では、永遠の命を得るとはどういうことなのか。
生ある者は死を免れない。
なればこそ、思いや在りし日の姿を忘れぬことこそが、その人が生き続ける証ではないだろうか。
生きるとは思いなのだから。

フリーレンは言う。

「あなたの記憶、私が未来に連れて行ってあげるからね」

勇者ヒンメル、僧侶ハイター、そして、そう遠くない時期に戦士アイゼンの記憶も、フリーレンは未来に届けるだろう。

ある人はかく語る。

「人生とは旅である」

悠久のときに思いを紡ぐフリーレン。
今日も仲間とともに旅をする。


葬送のフリーレン(1) (少年サンデーコミックス)

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