「闇に降り立った天才」赤木しげるの名言・名場面 第7局
市川編④『無欲』

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常識を超えた未曽有の強運、そして悪魔のような謀略で“盲目の雀士”市川を制した赤木しげる。
この瞬間、いつ果てるとも分からない長い勝負に決着がついた。

痺れるような緊張感から解き放たれ、辺りには弛緩した空気が流れ出す。

だが、ただひとり…。
そんなムードとは無縁の男が存在した。

限りなく澄み切った魂

劇的な幕切れの余韻冷めやらぬ中、この夜の賭け金800万をアカギに差し出す敵ヤクザ。

ところが、アカギはその大金を押し返す。

「断る…倍プッシュだ…!」

ざわつく周囲をよそに、赤木しげるは言葉を継ぐ。

「この勝負…どちらかが破滅しなければおさまらない!」

だが、相手ヤクザは完敗を認め断った。

「今の勝負で格付けが済んじまったんだ…もう市川はお前に絶対に及ばない。市川で及ばない相手に、オレ達でどうこうできるわけがない」

その言葉を受け、安岡や南郷も手にした800万(現在の8000万)で手打ちにしようと合意する。
ここに、長く熱い戦いは完全に幕を閉じた。

緊張の糸が切れたようにギャラリー達は、アカギの奇跡の闘牌について語り出す。
もちろん、大金を目の前にし、南郷や安田は頬が緩みっ放しである。
アカギにも取り分の200万(現在の2000万)が渡された。

その瞬間、喜びに浮かれる南郷の視界に、ひとり静かに座る赤木しげるの姿が映った。
札束に向ける赤木しげるの眼差し。
それは、子どもが興味のないオモチャを見つめる目のようだった。

そして、先ほどまでの狂気は嘘のように消え去り、赤木しげるは限りなく澄み切った綺麗な目をしている。
それは、赤木しげるの魂を映しているようだった…。

所感

赤木しげるの“神域の闘牌”により大金を手に入れ、喜色満面の安岡と南郷。
勝利の立役者アカギにも大金が渡され、当然嬉々として受け取ると思われた。

ところが、倍プッシュを持ちかけ拒絶する。
そして、「この勝負…どちらかが破滅しなければおさまらない!」というアカギ節を炸裂させる。
つまり、この場にいた裏世界の住人達の中で、赤木しげるだけが不退転の決意を持ってこの場に臨んでいたのである。

だが、敵陣営のみならず、南郷や安岡もそれ以上の戦いは望まなかった。
すると、ギャンブルの業火に身を置いた赤木しげるの熱は冷め、まるで憑き物が落ちたような表情になる。
その姿は普通の13歳のそれであった。

その瞬間、南郷は気が付いた。
赤木しげるの強さの秘密に…。

そのときのことを、南郷は述懐する。

「アカギにあって、オレにないもの…それは無欲」だと。

あれだけの大金を醒めた目で見つめる者など、赤木しげる以外に誰がいよう。
さながら、命を懸けた闘牌以外は、まるで興味がないと言わんばかりの赤木しげるの佇まい。
この欲望渦巻く猥雑な空間で、赤木しげるの周りだけ静謐な空気が流れているようである。
南郷ならずとも、生涯あんな目は出来ぬだろう。

この光景を見た我々は、大人達とのあまりにも対照的な魂の純度を実感する。
そして、その限りなく澄み切った魂こそが赤木しげるの本質であり、強さの秘密なのである。

赤木しげるは、およそ我々凡夫が望む金や権力、地位、名誉などには全く興味を示さない。
身を焦がすような真剣勝負そのものが生き甲斐なのである。
だからこそ、勝負の場では躊躇うことなく自らの命さえ危険にさらす。
だが、それは決して無謀でも向こう見ずでもない。
そこには欲望や保身を捨て去り、最善を尽くしながらも、常に死を受け入れる覚悟がある。
一切の不純物が混じることなく、どこまでも自らの矜持を貫く生き様。

私はただひたすらに、どこまでも澄み切った赤木しげるの魂に憧憬の念を抱くのだ。


アカギ-闇に降り立った天才 3 (本作品収録)

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