『PLUTO』哀しくも儚いロボットたち② ~エプシロンの章~

マンガ




エプシロンの章

エプシロンは本作の所々で顔を出し、重要な役割を担っている。
数多く登場する高性能ロボットの中でも、最も聡明で見識の高さが際立つのがエプシロンだといえるだろう。

その一端が窺えるのが、作中で「人間とロボットは近づきつつある。近づきすぎると、よくないことが起こる」と語った意味深長な発言である。

これは、もしかすると現在、我々人類が直面している問題ではないだろうか。
人工知能が目覚ましい進化を続け、もはや誰も止めることが不可能となり、行き着くところまでたどり着いた先に起こることとは…。
そうした漠然とした不安を感じているのは、私だけではないはずだ。

また、中性的な美男子の風貌とは裏腹に、無限の太陽エネルギーを動力とする光子エネルギーのエプシロンは世界最強のロボットである。
だが、誰よりも平和を愛する優しい心を持っている。


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ストーリー

エプシロンは身寄りのない子どもたちを育てていた。
それには深い訳がある。

第39次中央アジア紛争が勃発するとペルシア王国に制裁を下すため、世界最高水準の高性能ロボット7体に徴兵招集がかかる。
その結果、ロボット同士による血で血を洗う凄惨な戦いが繰り広げられた。

だが、7体の高性能ロボットの中で、エプシロンだけは徴兵を拒否し言い放つ。
「この戦争には義がない」と。
そのことにより、エプシロンは激しいバッシングを受けた。
そして、“臆病者”“卑怯者”のレッテルを貼られた挙句、戦後処理をさせられる。
その任務とは無数に横たわる同胞たちの残骸を、光子エネルギーで消滅させることだった。

だが、エプシロンは言う。
「世界中から罵声を浴びたが、おかげで大切なものを手に入れた」
それこそが、エプシロンが戦地で出会い、施設に引き取った戦争孤児たちだ。

エプシロンの誕生日になると、サプライズパーティーを開く子どもたち。
祝福のコーラスをすると、心をこめた手作りのプレゼントを次々と渡していく。
普段はクールな佇まいのエプシロンも、さすがに喜びを隠せない。
子どもたちにとってはエプシロンこそ、太陽であり家族なのである。

だが、穏やかな日常を送る彼らにも、プルートウの脅威はすぐそこに訪れていた。
子どもたちを危険にさらすことを避けるため、エプシロンは科学省国防局のホーガンの案内でセーフハウスに移動する。

ところが、プルートウは子どもたちが残る施設を襲撃する。
その危機を察したエプシロンはぎりぎりのタイミングで駆けつけ、プルートウを退けた。
だが、心優しいエプシロンは、プルートウに止めを刺さなかった。

そのことが大きな禍根を残すことになる。
施設の子ワシリーが、謀略により連れ去られてしまったのだ。
もちろん、エプシロンをおびき寄せるためである。

ホーガンも同行し、ワシリー救出に向かう。
だが、時は漆黒の闇が支配する夜である。
日が昇る夜明けを待つよう諭すホーガンを無視し、エプシロンは敵のアジトに突入した。
一刻も早く、愛するワシリーを救いたいからだ。

案の定、光子エネルギーが不足し、プルートウに捕まってしまうエプシロン。
だが、その間隙を縫ってホーガンがワシリー救出に成功する。

夜の終わりを告げる朝日が昇りかけ、すわ態勢逆転かと思った刹那、プルートウの巨大な猛威がワシリーとホーガンを襲う。
エプシロンは咄嗟に自らの手を切り離すと、体内の全エネルギーを注入した“エプシロンの手”で間一髪ふたりの危機を救った。

それを見届けたエプシロンは、安堵の笑みを浮かべている。
敵の掌中で絶体絶命のピンチに瀕しているというのに、優し気な表情には父性が満ちていた。

次の瞬間、両手を切り離し無防備になったエプシロンは、プルートウの一撃で砕け散った。
だが、肉体は滅びても、“エプシロンの手”はワシリーとホーガンを守り続けるのであった。

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所感

ついに、エプシロンにまでプルートウの魔の手が伸び、「地上最強のロボット」は優しさゆえに帰らぬ人となる。

戦争終結後、徴兵拒否のペナルティにより戦災跡地へ派遣されたエプシロンは、凄惨な光景を目撃する。
そして、息絶えたとはいえ本来仲間であるロボットたちの処理に駆り出され、筆舌に尽くし難い気持ちを抱いたに違いない。

だが、エプシロンはその地で“大切なもの”を見つけた。
彼の子どもたちへの温かい眼差しは、まさに限りなく深い愛情を映し出している。
普段は怜悧な高性能ロボットのエプシロンも、子どもたちに対しては柔らかな空気で包み込む優しいお兄さんに早変わりするのだ。

“臆病者”と世間から罵られたエプシロンだが、その行動を見れば全く見当外れもいいところである。
エプシロンは自らの危険を顧みることなく、ワシリー救出に馳せ参じる。
それも、光子エネルギーを全く得られない真夜中に、敵地に飛び込んで行くのだ。

そして、自らの命と引き換えに、原作でも有名な“エプシロンの手”でワシリーとホーガンの命を守り切ったのである。

一見すると、金髪の優男風のエプシロンだが、その胸には誰よりも勇敢な心を宿している。
何よりも世界中から批判を受けてなお、己の信念のもと徴兵拒否を貫き通し、平和を愛し続けた姿こそ、真の勇気と言わずして何と表現すればよいのだろう。

そうした勇気あふれるエプシロンに感銘を受ければこそ、ホーガンは最敬礼のポーズを取りながら、亡きエプシロンに語りかけたのだ。

「エプシロン、あなたは…こんなことを言われるのは、本意ではないでしょう。でも、あなたは徴兵を拒否した卑怯者なんかじゃない。あなたは勇敢な兵士でした」

エプシロン警護の任務についたホーガンは、高潔な精神を宿した尊敬に値する高性能ロボットである。
作中でも、プルートウの攻撃から身を挺して子どもたちを守るなど、人間顔負けの人格者であった。
そのホーガンが、これ以上ないほどの敬意を表し、捧げた哀悼の意。
その言葉は、どこまでも深く心に沁み渡る。

死の瞬間、エプシロンは子どもたちの笑顔を思い出す。
そして、想いを乗せ、眩いばかりの光となって大地に降り注ぐエプシロンの魂。

美しく、儚く散った「地上最強のロボット」エプシロン。
ホーガンのみならず思うだろう。
「エプシロン…あなたは誰よりも愛と勇気に満ちた真の戦士だった」と。

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