名作映画「いつも心に太陽を」~黒人教師と生徒達の物語~

映画




「いつも心に太陽を」は1967年にイギリスで制作された映画で、学園ものとしては先駆け的作品です。
黒人俳優として初のアカデミー賞を受賞したシドニー・ポワチエが主演を務めました。

私が本作を初めて観たのは中学生時代の日曜洋画劇場だったと記憶しており、見終わった瞬間、とても感動したことを昨日のことのように覚えています。
個人的には「バジュランギおじさんと、小さな迷子」とともに、最も好きな映画のひとつといえるでしょう。

ちなみに、元阪神タイガースの主砲・掛布雅之も好きな映画に挙げており、そんなことからも巨人ファンだった私が彼にだけは温かい眼差しを送ったことは言うまでもありません。

前置きが長くなりましたが、内容を紹介していきたいと思います。

ストーリー

通信技師のマーク・サッカレーは働き口が無かったこともあり、中等学校で教職に就く。
だが、そこは貧困地区の学校で、生徒達の素行は必ずしも褒められたものではなかった。
彼らの反抗的な態度に、新米教師のサッカレーは日々悪戦苦闘する。

ある日、サッカレーは生徒達の度を超えた蛮行に怒りを爆発させる。
それを機に子ども扱いするのを止め、一人ひとりに大人として接することを決意する。
礼節や身だしなみ、人としての振る舞いを説き、何よりも生徒との対話を重んじた。
これまでの教師とはひと味違うサッカレーの誠実な態度に、徐々に変わっていく問題児達。

こうして、いつしか教師と生徒の間に信頼の絆が芽生えていくのであった。




教師マーク・サッカレーの人間力

マーク・サッカレーは黒人にありがちな、貧しい家庭に育ちました。
ですが、教育を受けるため、血の滲むような努力で今日に至ります。
そして、通信技師や教師として働く以前は皿洗いやウエイター、コックからアパートの管理人まで様々な職種に従事して来ました。

言葉遣いも上品で、毅然とした態度を崩さぬサッカレー。
そんな彼は教え子に努力すれば何とかなることを、自身の体験を踏まえて伝えます。

私がサッカレーに感心するのは、思春期真っ盛りで好奇心旺盛な生徒の際どい質問にも決して逃げずに向き合っていく姿勢です。
普通ならば体裁を気にして答えにくい疑問にも言葉を濁さず、それでいて下品になることなく、時にユーモアを交えて語りかけていくのです。
だからこそ、およそ大人や教師を信用していなかった生徒達も心を開いていきました。

サッカレーは教科書に載っていることだけが、教育ではないことを示します。
生徒達が彼の話に興味を抱き、課外授業として博物館に行きたいと言えば、校長にかけあって希望を叶えます。
それが実現した時の生徒達の嬉しそうな様子といったら…。
洋の東西を問わず、子どもの輝く瞳ほど素晴らしいものはありません。

知性と清潔感、高い見識、そして肌の色というハンデをものともしない人間力を有した教育者。
それが、マーク・サッカレーなのです。


僕らを育てた声 田中信夫編

作品の見どころ

1.恋愛模様

清廉潔白で男性としても魅力的なサッカレーは、女生徒から熱い視線を送られます。
クラスの大人びた美少女パメラは、とりわけ熱い恋心を燃やしました。
おそらく、初めて出会った大人の男だったのでしょう。
ですが、サッカレーはあくまでも教師と生徒以上の関係には踏み込みません。

ダンスパーティーの最後に、サッカレーはパメラと踊ります。
どうしてもと、パメラからお願いされたからでした。
生徒の真摯な願いを袖にするほど、サッカレーは野暮ではありません。
少女の恋心は受け入れることはできなくとも、思い出作りの一助には協力を惜しみません。
ダンスが終わり、別れの挨拶を交わすふたり。
少し切ない結末ですが、パメラは美しい青春の一頁として昇華させました。

もうひとり同僚の女教師ジリアンも、サッカレーへの想いを募らせます。
実は、サッカレーもジリアンが気になる様子を隠せません。
作中では明確に結ばれるシーンこそ無かったものの、きっとふたりは…。
そんなことを予感させるサッカレーとジリアンなのでした。

2.失った信頼の回復

体育の時間、高圧的な体育教師が運動の苦手な生徒に無理やり高い跳び箱を飛ばせたことにより、怪我をさせてしまいます。
そのことに激昂したクラスメイトが、体育教師に殴りかかろうとしました。
間一髪、サッカレーが止めに入り事なきを得ましたが、そのことが原因で生徒達との間に気まずい空気が流れ始めました。

そして、どんな時もサッカレーの味方であったパメラに夜遊びを注意したことがきっかけで、反感を買ってしまいます。

そんなある日、体育教師に代わって授業を任されたサッカレーは、クラスのリーダー格・デナムにボクシングを挑まれます。
しぶしぶ受諾するサッカレーに猛然と殴りかかるデナム。
守りに徹していたサッカレーですが、カウンターのボディ一発で返り討ちにしました。

翌日、デナムはサッカレーに尋ねます。

「俺は本気だった。それに、これまでもずっと反抗し続けていた。なのに、なぜ途中でやめた?」

「君を殴ってどうなる」

サッカレーの返事に、デナムは戸惑います。
彼の価値観では、憎いはずの自分に慈悲をかけることなど有り得なかったのでしょう。
その後も会話を続けていくうちに、目の前の教師は信頼に足る人物だと確信していきます。
サッカレーという教師の誠実な人柄、そして人としての器の大きさに心酔するデナム。

そして、他の生徒達とも再び関係を再構築したのでした。

3.天職

先述のとおり、サッカレーは教員に就く前は通信技師として働いていました。
元々、教員は長く勤めるつもりは無かったようで、教壇に立ってからもエンジニアの職を探していました。
ですが、なかなか色よい返事がきません。

そんな中、ついにラジオ工場での技師の仕事が見つかりました。
大喜びのサッカレーに、ジリアンは複雑な表情を浮かべます。

卒業ダンスパーティーに向かうサッカレー。
ついに生徒達、そして、この学校ともお別れです。
当初はサッカレーに批判的だった教師も、彼の教育者としての手腕と資質を惜しみました。

「技師は他の人でもできる。だが教師は…」

また、他の教師も言いました。

「ここを辞めても教師は続けて。電子工学には惜しい才能よ」

ダンスパーティーの最後で、生徒達からサプライズがありました。
サッカレーへの心からの感謝を述べた言葉に、思いを乗せた歌。
そして、メッセージが添えられた心の籠ったプレゼント。

サッカレーは感動のあまり、言葉になりません。
出会った頃からは想像もできなかった教え子達の成長。
何よりも子ども達の真心に涙が滲みます。

サッカレーは決意します。
技師ではなく、教師に生涯を捧げると!
サッカレーは採用通知を破り捨てました。

まとめ

本作品は単なる学園ドラマに留まらず、肌の色に起因する根深い人種差別も随所に散りばめています。
サッカレー自身が黒人ということもあり、彼を通して描かれるシーンは残酷です。

ですが、サッカレーは少しだけ哀し気な表情を浮かべると、理性を保ち冷静な振る舞いに終始します。
彼は生徒に対して身をもって、理不尽で厳しい現実にも挫けず、ときに呑み込まなければならないことを大人として伝えます。

シドニー・ポワチエの名演技が光る「いつも心に太陽を」。
本作品は教師と生徒の心の交流を鮮やかに描き切りました。

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