フランダースの犬「ネロとパトラッシュ」 死すら分かつことなき永遠の絆

マンガ・アニメ




「フランダースの犬」。
“ラララ ラララ”という、どこか懐かしいオープニング曲で始まる本作は、かつて世界名作劇場で放送されたアニメである。

そして、昭和の泣けるアニメの代名詞ともいえるだろう。
子どもだけでなく、老若男女問わず涙した名作だ。

主人公の少年ネロと老犬パトラッシュが、天に召されたラストシーン。
あまりの悲劇的な結末に、かく言う私も涙したことを思い出す。

だが、歳月を経て、私は考えを改める。
あのエンディングは果たして、本当に悲しい結末だったのだろうかと…。

ストーリー

ネロはフランダース(現在のフランドル)地方の小さな村で、おじいさんと一緒に暮らしていた。
幼いときに、両親を亡くしたからである。
そんなネロは、絵を描くことが大好きな心優しい少年だ。

あるとき、飼い主に虐待ともいえる扱いを受けていた老犬パトラッシュを助け、それ以降、ふたりは最良の友となる。
貧しいながらも、おじいさんとパトラッシュの3人で力を合わせ、牛乳売りの仕事で生計を立てていた。

しかし、ネロに悲劇が襲う。
おじいさんが亡くなったのである。
さらに、追い打ちをかけるように放火の濡れ衣まで着せられ、ついには牛乳売りの仕事まで失った。

そして、風雪舞うクリスマスの夜、飢えと寒さに凍えるネロはひとり家を出た。


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心美しきもの

おじいさんを亡くした後のネロの人生は、それはそれは悲惨なものだった。

以前から、大地主にして村一番の金持ちコゼツに忌み嫌われていたのだが、彼の風車小屋に火事が起きると、より一層ネロに対しての当たりが苛烈を極めていく。
使用人のハンスが、火事の原因がネロの仕業だと告げ口したからである。
もちろん根も葉もないデマであり、それどころか真相はコゼツとハンスに原因があったのだ。

村の有力者コゼツに逆らえる者などいるはずもなく、唯一の収入源である牛乳売りの仕事まで失ってしまうネロ。
さらに、隣人の優しいヌレットおばさんも体調を崩し、娘夫婦のもとに引き取られて行った。

こうした様々な不運が重なり、ネロは徐々に追い詰められていく。
身よりもない10歳の少年に為す術などあるはずもなく、絶望の淵に立たされた。

しかし、ネロは人間の最も美しい魂の有り様を、我々に語りかける。
コゼツが落とした2000フランもの大金を拾うと、ほうほうの体で自宅まで届けたのである。
留守のコゼツの代わりに家族に渡し、パトラッシュを置いて出て行った。

ネロはこのとき、食べる物もなく空腹に苛まれていた。
事実、すぐ後に飢えと寒さの中、天国へ旅立った。
にもかかわらず、1フランも取らずに返したのである。

いわれなき理不尽な嫌がらせを受け続けた、憎いコゼツの金だ。
私なら空腹も手伝って、全額とはいわずとも金貨の何枚かは拝借したに違いない。
最後の最後まで、ネロは善良な心で人生を全うした。




後悔する愚者達

その頃、コゼツは大金を落としたことに気づき、青ざめていた。
絶望に打ちひしがれながら自宅に戻ると、失くしたはずの2000フランが戻っているではないか!
事の顛末を聞いた彼は、このとき初めてネロという少年の人間性を理解した。
後悔に打ち震えるコゼツ。

さらに、風車職人のノエルから、風車小屋の火事の原因を知らされる。
ここに至ってようやく、思い込みでネロの犯行だと吹聴したハンスも反省した。
自責の念に駆られたコゼツらは、村人を総動員しネロを捜した。
だが、ネロは自宅にはおらず、その後の足取りもようとして知れなかった。


全くもって、胸糞悪いとはこのことである。
コゼツは金持ちなのを鼻にかけ、特に明確な理由もなく貧しいネロを疎んじた。
挙句の果てには、ネロを「絵ばかり描いている怠け者」呼ばわりする始末である。
ネロは牛乳運びの仕事を率先して行い、木こりの仕事まで手伝うなど、実際は働き者であるにもかかわらず…。
ネロの本当の姿を見ようともせず、ただハンスの陰口を鵜呑みにし、辛辣な態度に終始した。

そして、コゼツ以上に醜悪で、どうしようもない卑しい人物が“コゼツの腰巾着”ハンスである。
まだ年端もいかない、弱い立場のネロに嫌がらせをし続け、何かあると全部ネロのせいだとコゼツに言いつける。
ノエルに風車小屋の一件で雷を落とされ、やっと己の悪行を自覚する。

たしかに、この物語はとても悲しい結末だともいえる。
しかし、真の意味で終生償い切れぬ十字架を背負うのは、コゼツとハンスであろう。
純真な心に罵詈雑言を浴びせ続けたことを謝りたくとも、肝心のネロはもうこの世にいないのである。
そして、それはコゼツの顔色を窺い、罪もない少年を不作為という愚行で死に追いやった村人も同じであろう。

天国へ旅立ったネロ

吹雪の中、ネロが寒さに震えながら、たどり着いたのは大聖堂だった。
そして、人生の悲願だった「ルーベンスの二枚の絵」をようやく観ることができた。
だが、ネロは力尽きてしまう。

すると、そこに親友が現れる。
それは、置いて来たはずのパトラッシュだった。

パトラッシュに気付いたネロは、嬉しそうに語りかける。

「パトラッシュ、お前、僕を捜して来てくれたんだね…僕は観たんだよ。一番観たかった“ルーベンスの二枚の絵”を。だから、僕はいま凄く幸せなんだよ…」

そして、かけがえのない友の背中を優しく撫でながら、最後の言葉をささやいた。

「パトラッシュ、疲れたろう…僕も疲れたんだ。何だかとっても眠いんだ…パトラッシ…」

次の瞬間、天使たちが舞い降りる。
そして、ネロとパトラッシュを抱え上げ、天国に飛び立った。

これが、「フランダースの犬」のラストシーンである。

夢にまで見た“ルーベンスの二枚の絵”を目前にし、聖母マリアへ心から感謝するネロ。
そして、今わの際で人生最良の友パトラッシュと再会し、喜びを伝え旅立った。

たしかに、実際に映像を見ると涙が止まらない。
だが、ネロの表情は幸福に満ちあふれていた。

そして、最後にナレーターはこう締めた。

「ネロとパトラッシュは、おじいさんとお母さんのいる遠いお国へ行きました。もうこれからは寒いことも、悲しいことも、お腹が空くこともなく、みんな一緒にいつまでも楽しく暮らすことでしょう」

どうしても絵づらに引っ張られ、ネロの死にばかり目が向いてしまう。
だが、改心したとはいえ、あれだけの酷い仕打ちをしたコゼツとハンス。
そして、保身に走り自分を見捨てた村人と生きることが、ネロにとって本当に幸せなのだろうか…。
たしかに、友達のアロアにヌレットおばさん、ノエルじいさんや木こりのミシェルなど、善良な人々もいた。
また、最後は多くの人がネロのために駆け付けもした。
しかし、祖父を亡くして以降、散々ぱら天涯孤独の10歳の少年が放置されていたのである。
ネロの住む場所もまた、薄情で世知辛い世界としか思えない。

それよりも苦しみのない天国で、家族やパトラッシュと一緒に過ごせる方が遥かに幸福なのは明白だ。
私には、やっとネロが苦しみから解放されたように感じた。

そろそろ結論を述べる。
神が一生拭えぬ罪を与えたコゼツやハンスをはじめとする、ネロを見捨てた大人たちにはバッドエンド。
艱難辛苦の末、天国の住人となったネロとパトラッシュには、ハッピーエンドと言えるのではないだろうか。

まとめ

不朽の名作「フランダースの犬」について語ってきた。

定説とは180度異なる見解に違和感を覚える方も多いだろう。
当然である。
だが、こんな風に思えれば、この悲しい物語にも救いがあるように感じるのだ。
そして、そう解釈できたならば、おじいさんやお母さん、パトラッシュと笑顔でいるネロが瞼に浮かぶのではないか。

どんな困難に遭おうとも、謙虚で清らかな心を失わなかったネロ。
だからこそ、神様はご褒美として天国の使者を遣わせたのだろう。

最期まで、ネロに添い遂げたパトラッシュ。
ネロとパトラッシュには、死すら分かつことなき永遠の絆が存在した。

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